2011 Fiscal Year Research-status Report
熱帯大湖沼トンレサップ湖における栄養塩の空間的分布と水域変遷帯における環境変化
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23701032
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
大八木 英夫 日本大学, 文理学部, 助教 (50453866)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 国際情報交流 / カンボジア / トンレサップ湖 / シェムリアプ川 / 水質 / 季節変化 / 水位 |
Research Abstract |
平成23年度には3年計画の1年目に当たる。本研究では,主たる調査地点を都市の成長著しく開発が進行するシェムリアプ州を流れるシェムリアプ川とその下流域で湖の中間区域にあたる浸水林内およびトンレサップ湖北部の各水域の変遷帯とした。調査期間は,毎年,雨季と乾季の2 時期で実施した。調査項目は,水温・水質・溶存酸素・濁度・クロロフィルで,各水域の栄養塩・懸濁物質と湖水位変化との関係を定量的に把握すると共に,流域の人間活動に由来する栄養塩の湖への流入と湖内部での挙動について,水循環の視点からその特性を描出することが本研究の目的とした。すなわち,各水域の変遷帯における雨季と乾季の流量変化の特徴や水質特性に関して全体像を把握することを目的として,フィールドワークを中心に行なった。トンレサップ湖に流入するシェムリアプ川流域全体やトンレサップ湖では,水質の季節変化を明らかにするために,試料の収集につとめ浸水林内の水域などの調査地点を加え,現地調査により得られる流量・湖水位等の観測データをあくまでも最重要の基礎資料と位置づけ,持ち帰る検水については,主要イオン・栄養塩類・微量金属元素にについて分析を行った。その結果,乾季と雨季の水質の違いについて明らかにし,その結果について学会発表などを通じて,成果を討議の場とし提起をした。また,本結果を用いることにより,カンボジア社会が発展するにつれて顕在化してきた自然環境の汚染などについて,その特性を定量的に評価し,その結果にもとづきこれらを軽減させるための基礎資料を作成することで,社会への還元へと試みている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
3年計画の1年目に当たる本研究では,現地におけるフィールドワークを,2回(2011年9月;雨季・2012年3月;乾季)に実施した。調査地点は,概ね計画通りに設定された。しかし,浸水林内における調査は,現地の森林の生育や住民による移住,漁業権の問題などにより,数点実施できない場所が生じた。これらの点については,他の地点を選定し,当該地域の水環境の解明について補完する計画である。現地調査により得られる流量・湖水位等の観測データをあくまでも最重要の基礎資料と位置づけ,持ち帰る検水については,主要イオン・栄養塩類・微量金属元素にについて分析を行った。一方で,研究計画の一つに挙げている,水素・酸素などの環境安定同位体分析については,実施されていない。これは,先の大震災における影響により,機器の破損および建物の工事などにより,分析ができない状況が続いているためである。早急に,分析環境を整え多項目の水質分析を実施し,所期の研究目的を達成させる計画である。社会への還元への第一歩として,学会発表やカンボジアにおいて調査研究を実施している,カンターパートとなる諸機関(APSARA( カンボジア王国アンコール遺跡整備機構)カンボジア王国政府閣僚評議会,日本国内の研究者との連携をし,シンポジウムなどに積極的に参加した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度の調査計画は,基本的に1 年目の作業を引き続き継続することは,周年特性を把握し長期的な変化をまとめる上でも重要であるためそのまま調査を継続する予定である.また,2 年目には,得られた資料を解析に重点をおくことになる。一方で,残された水質項目の分析を実施できる環境を整える計画である。その結果をふまえて,これに伴い,気象観測より流域内の降水量の地域分布,蒸発散量や湖面蒸発量の見積もり,湖流域における物質収支の精度を向上させる計画である。このため,平成23年度繰越金の11.6万円を現地における調査回数の頻度を増やすために使用し,調査の許可申請を進め,継続的な水位・水温データの収得を試みる。湖内への水の流出や流入については,地質調査,湖流や湖水および周辺の地下水の水温・水質・安定同位体をトレーサーに用いて,湖水の挙動を3 次元的に明らかにする。また,カンボジアにおいて調査研究を実施している,ターパートとなる諸機関(APSARA( カンボジア王国アンコール遺跡整備機構)カンボジア王国政府閣僚評議会,日本国内の研究者との連携をし,シンポジウムなどに積極的に企画・立案し,これによって研究成果が同国や国際機関での環境政策の推進に直接的に反映される方法を模索する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度の研究費において,現地の調査に必要な機器がそろったことになり,平成24年度では,よりフィールドワークを繰り返す必要があると考えられる。これは,人的影響度の指標となる栄養塩や懸濁物質の挙動に注目しているため,水の物理的・化学的特性は,時期によって,劇的に無機的環境が変化することが明らかとなっているため,この点を解明するために必要である。その一方で,国際的な学術大会に参加することにより,カンボジアのみならず東南アジアの湖沼環境として,成果を討議の場に提起することを計画している。平成23年度繰越金の11.6万円は,現地における調査回数の頻度を増やし,補完的な調査資料の収集に当たっては,学内研究費を充てることとする。
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