2012 Fiscal Year Research-status Report
ヒストン脱メチル化酵素PHF2の発現量変化と癌の悪性化との関連についての解析
Project/Area Number |
23701038
|
Research Institution | Takasaki University of Health and Welfare |
Principal Investigator |
岡本 健吾 高崎健康福祉大学, 薬学部, 講師 (60437754)
|
Keywords | ヒストン / 脱メチル化 / エピジェネティクス / PHF2 |
Research Abstract |
リボソームRNA(rRNA)転写は細胞外シグナルに応答して緻密に制御されており、細胞の成長・増殖の制御に重要な役割を果たしている。リボソーム合成の第一段階はrRNA転写であり、これがリボソーム合成量決定の大きな要因となっている。rRNA転写量の調節は、細胞が正常に増殖するために必須である。また、rRNA転写量の異常は発癌に強く関係しており、癌化した細胞では異常なrRNA合成がみられ、無秩序な増殖が可能となる。 ヒストンのメチル化修飾はクロマチン状態を決定する主要なヒストン修飾の一つである。メチル化修飾の役割や修飾調節のネットワークは複雑であり、未知の部分が多々ある。近年、JmjCドメインを有するタンパク質がヒストン脱メチル化活性を持つことが明らかになり、ヒストンの脱メチル化による転写調節機構の解明が進んでいる。 JmjCドメインタンパクであるPHF2は、核小体に強く局在していることから、rRNA転写の制御因子として働くことが期待される。そこで本研究では、細胞株を用いてPHF2のRNAi干渉を行い、PHF2発現抑制による細胞への影響を解析した。その結果、PHF2ノックダウン細胞ではrRNA転写量の低下がみられることが明らかになった。さらにクロマチン免疫沈降法の結果から、PHF2はrRNA遺伝子のプロモーター上に存在することが分かった。 これらの結果から、PHF2はrRNA転写の正の制御因子であり、細胞増殖に必須な因子であることが示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
前年度に引き続き、今年度も分子生物学的アプローチによってPHF2の分子実態の解明につとめた。それらを踏まえた上で実施計画と実施概要とを照らし合わせると、予定通りに進行できずにやや遅れていると考える。 RNAi干渉の結果より、PHF2がrRNA転写を正に制御しており、細胞増殖に必須であることが明らかになった。さらにクロマチン免疫沈降の結果より、PHF2はrRNA遺伝子のプロモーター上に存在することが明らかになり、このことからもrRNA転写を直接制御している可能性が考えられた。PHF2の脱メチル化活性依存的にrRNA転写が調節されることが考えられたので、ヒストンメチル化修飾の変遷についての解析を行ったのだが、その詳細については明らかにすることができなかった。引き続き研究を行いPHF2のクロマチン上での挙動について明らかにしていく。 また、PHF2の過剰発現細胞株を樹立し、それらから回収したPHF2タンパクを用いてマススペクトロメトリーによるPHF2相互作用タンパクの単離を試みたが、候補因子の同定には至らなかった。実験条件を変更して引き続き解析を行う。次年度にはこれらの結果をまとめて、国際学術誌に投稿する予定であり、研究全体の計画・目的は達成されつつある。
|
Strategy for Future Research Activity |
基本的に計画通りに行うが、実験結果の良し悪しに応じて柔軟に変更する。PHF2の分子実体を明らかにすることが本研究計画の主題であるので、今年度に引き続き解析を続ける。PHF2はヒストン脱メチル化に必須なjmjCドメインやヒストンタンパクとの結合に必要なPHDドメインなどを有する。PHF2はヒストン修飾に応答して選択的にヒストンタンパクに結合することが考えられる。今後はPHF2変異体の過剰発現によるrRNA転写への影響およびヒストン修飾の変化を調べ、PHF2のクロマチン上での機能を明らかにする。 さらに研究計画の順序変更に伴い、平成23年度の研究計画内にあるが未解析である、肝癌細胞におけるPHF2発現量の変化の測定についての検証を行う。予備的実験ではステージの進行した肝癌由来培養細胞ではPHF2の発現が低下することを示したので、PHF2発現の調節によって癌細胞のステージ進行が調節できるかを調べる。 これらの解析により、PHF2によるrRNA転写調節の分子機構とヒストン修飾と細胞の癌かとの関連を明らかにできる。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
初年度の予算の使用に関しては研究計画の変更もあり、若干の計画変更を行った。培養細胞を用いた実験を主に行ったため、細胞培養用のシャーレや遺伝子導入に必要な試薬などの消耗品の購入に充てることで効率的に研究を推進できた。 発生した繰越金に関しては、初年度に行う予定であった実験計画の変更に伴うものである。次年度以降に行う研究計画では基本的に次年度の物品費に加算して使用する計画である。 本研究計画では、様々な細胞株を用いて分子生物学的手法で研究を遂行するために、合成siRNAや合成オリゴDNA、常備試薬や実験キットなどの試薬類、細胞培養関連製品など、消耗品の購入を重点的におこなう。しかし機器故障などの研究遂行に困難が生じた場合には、柔軟に対応し手使用計画を変更する可能性もある。
|