2011 Fiscal Year Research-status Report
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23701046
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
山口 憲孝 東京大学, 医科学研究所, 助教 (80399469)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | シグナル伝達 / がん幹細胞 |
Research Abstract |
本年度は、乳癌幹細胞維持に関わるNFκB標的遺伝子の特定と、乳癌細胞におけるNFκB-inducing kinase(NIK)恒常的活性化の分子機構解析を進めた。マイクロアレイ解析により乳癌幹細胞維持に関わるNFκB標的遺伝子としてNOTCHリガンドの一つであるJAG1を同定した。乳癌細胞のNFκBを抑制するとJAG1発現が低下し乳癌幹細胞の割合も低下した。IKK過剰発現やTNFα刺激によりNFκBを活性化すると、JAG1発現が増加し乳癌幹細胞の割合も増加した。RNAiにてJAG1の発現を抑制すると、NFκB活性化を誘導しても乳癌幹細胞は増加しなかった。NOTCH阻害薬を用いても同様の結果が得られた。乳癌組織では繊維芽細胞やマクロファージなどの正常細胞が癌の進展を促進することが知られているが、これらの細胞でもTNFα刺激にてNFκB活性化を誘導するとJAG1の発現が誘導された。これらのことから、乳癌組織においては乳癌細胞自身や周囲の正常細胞のNFκBが活性化されるとJAG1の発現が上昇し乳癌幹細胞が増加することが示唆された。次に、プロテオーム解析によりNIKの活性化を促進する新規タンパク質を同定した。このタンパク質はNIK活性化乳癌細胞株において高く発現しており、RNAiノックダウンにて発現を抑制するとNIK恒常的活性化は抑制され、さらにNFκBの活性化も低下した。ノックダウン細胞では乳癌幹細胞の割合が低下し、細胞増殖や抗癌剤耐性も低下した。本研究により、JAG1やNIK活性化を促進する新規タンパク質が乳癌幹細胞をターゲットとした新たな治療標的になる可能性が示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、乳癌幹細胞維持に関わるNFκB標的遺伝子とNIK恒常的活性化の分子機構についてスクリーニングを行い、候補分子を特定することを目的とした。その結果、前者についてはマイクロアレイ解析によりJAG1を特定し、後者についてはプロテオーム解析によりNIKの新規活性化因子を特定することができた。JAG1に関しては、乳癌細胞のみならず繊維芽細胞やマクロファージなど癌微小環境を形成する細胞群においてもNFκB活性化によりJAG1発現が誘導されることを発見した。このことは、癌組織全体のNFκB活性が乳癌幹細胞の増加に寄与することを示しており、炎症と癌の関連を示す新しい知見として意義があると考えられる。また、JAG1の発現抑制やNOTCH阻害薬処理によりNFκB依存的な乳癌幹細胞の増加が抑制されたことから、JAG1阻害抗体やNOTCH阻害薬が乳癌幹細胞を標的とした治療薬になることも期待される。今後は、マウス発癌モデルにおけるNFκB-JAG1経路の重要性の解析や、乳癌幹細胞維持に関わるJAG1-NOTCH経路の役割について解析を進める予定である。NIK活性化機構の解析において特定した新規活性化因子については、この分子の発現を欠損したマウス繊維芽細胞を用いてNIK活性化を導くサイトカイン刺激(lymphotoxin, Tweakなど)も行った。すると、この細胞ではNIK活性化が著しく低下しており、この因子は癌細胞のみならず正常細胞においてもNIK活性化に必要であることがわかった。今後は、この因子の役割について分子レベルで解析する予定である。以上のように、本年度は目的を達するとともに今後の発展につながる結果を得ていることから、おおむね順調に進展していると自己評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
乳癌幹細胞におけるNFκB-JAG1の解析については、まずマウス乳癌モデルを用いてこの経路の役割について解析を行う。我々はp53ノックアウトマウスを保有しているため、このマウスを用いて乳癌モデルを作製する。形成された乳癌組織より表面マーカーを用いて乳癌幹細胞と他細胞を分離しNFκB活性化やJAG1発現を解析する。RNAiによるJAG1発現抑制やNOTCH阻害剤処理により乳癌幹細胞が減少するかどうかを調べる。さらに、NOTCH阻害剤を乳癌マウスに投与し、癌幹細胞の割合や、癌組織の増加ならびに転移能について解析を行う。乳癌幹細胞維持に関わるJAG1-NOTCH経路の解析については、これまでに標的遺伝子の発現解析を行っており、乳癌幹細胞の割合と相関のある標的遺伝子を特定している。次年度はこの遺伝子の強制発現や発現抑制を行い、乳癌幹細胞への影響を解析する。NIK活性化を促進する新規分子については、この分子の役割について分子レベルの解析を行う。この分子はタンパク質ユビキチン化を制御することが知られていることから、NIKや制御因子のユビキチン化を調節することによりNIK活性化を誘導していると考えられる。次年度は、まず、新規分子が直接結合する標的を免疫沈降法により特定する。次に大腸菌や昆虫細胞を用いてNIKや制御因子の組み替えタンパク質を作製し、in vitro再構築実験を行って新規分子によるタンパク質ユビキチン化への影響を解析する。また、変異導入実験により新規分子におけるNIK活性化に必要な領域を特定し、将来的にはこの領域に変異を導入したノックインマウスを作製する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は、主に培養細胞を用いたタンパク質の機能解析実験を行うため、研究費の大部分は生化学実験や分子生物学実験に必要な消耗品にあてる。物品の購入は計画していない。また、実験は全て申請者が行うため人件費も発生しない。研究の最終年度であるため、国内外の学会に参加して研究成果を発表する計画であり、学会参加のための旅費が必要となる。論文発表も行うため、英文校正費や論文掲載費も必要となる。
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Research Products
(4 results)