2011 Fiscal Year Research-status Report
低酸素・低栄養に抵抗性な癌細胞を標的とした新規制癌法
Project/Area Number |
23701047
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大澤 毅 東京大学, 先端科学技術研究センター, 特任助教 (50567592)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
Keywords | 癌 / 細胞・組織 / ストレス / エピジェネティクス / ヒストン修飾 |
Research Abstract |
癌の増殖と転移には腫瘍微小環境が重要な役割を果たす。我々は、低酸素・低栄養という腫瘍微小環境が癌の悪性化と治療抵抗性を促進することを報告してきた。また、血管新生阻害療法は様々な癌種において広く用いられているが、その抵抗性獲得の問題は十分解決されていない。この点を明らかにするため、申請者らはこれまでin vitro培養系で血管阻害療法に類似した低酸素・低栄養ストレスをがん細胞に与える単純な系を作成し、平成23年度は、以下のような研究成果を得て論文発表した。(1)低酸素・低栄養下で残存する腫瘍が二次性白血病の原因となる。低酸素・低栄養の癌微小環境が癌細胞自身の転移能を亢進することを以前明らかにしたが、低酸素・低栄養下で残存する癌細胞が抗癌剤治療等による染色体異常に依存せず、宿主の免疫応答を惹起して二次性白血病を引き起こす新しい白血病モデルを明らかにした。(2)ヒストン脱メチル化酵素が栄養飢餓において腫瘍増殖を抑制する。ヒストン脱メチル化酵素(JHDM1D (KDM7A))は、精神疾患に関与する遺伝子として報告されているが、癌における役割は不明である。我々は、JHDM1Dが低栄養下でヒト及びマウスの癌細胞において発現が亢進していることを見出し、エピゲノム因子が低栄養下で腫瘍血管新生を制御し腫瘍増殖を抑制することを明らかにした。(3)抗癌剤耐性を克服する新しい細胞死のメカニズムを解明。抗癌剤においてDNA修復不全と未成熟な細胞分裂からp53に依存しない新しい細胞死が誘導されることを見出し、抗癌剤耐性を克服する一つ可能性が示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
血管新生阻害に伴い癌細胞は低酸素・低栄養に陥り、これがヒトの癌においてどのように悪性化の促進に寄与するかは知られていない。交付申請書に記載した23年度の研究目的と、その達成度について報告する。(1)Akt-PI3K-mTORシグナル伝達経路が、我々が樹立した低酸素・低栄養抵抗性ヒト癌細胞株においてin vitro における細胞増殖能、細胞遊走能や、in vivoにおける腫瘍増殖能、血管新生(CD31)、細胞浸潤(マクロファージ:CD11b等)、転移能等に関与するか検討した。その結果、Aktのリン酸化亢進及び、細胞遊走、浸潤能が亢進していた。(2)低酸素・低栄養抵抗性の癌細胞株が腫瘍増殖能を亢進することから、これが骨髄からマクロファージ系細胞に依存するかをVEGFR-1 TK KOマウスと骨髄移植実験により検討した。結果としてVEGFR1にあまり依存しないことが明らかとなった。(3)我々はヒト神経膠芽腫細胞株(T98G)を、低酸素下の栄養飢餓状態で長期培養しヌードマウスに皮下移植した結果、通常培養のT98Gと比較して、この細胞を移植した群においてのみ二次癌(CD3陽性悪性リンパ腫)の発症が認められた。従ってホスト免疫を惹起する可能性がある炎症性サイトカインIL2,IL4,IL6,IFNγ等の関与を検討した。結果、炎症性サイトカインIL4,IL6が関与することを確認した。 23年度の計画の検討実験はすべて完了し一定の結果を得た。また、(3)に関しては論文発表することができたことから23年度の研究目的はおおむね達成され、本研究は順調に進展している。
|
Strategy for Future Research Activity |
おおむね計画通り研究が進んでいることから、今後も当初の研究計画を遂行する。我々はヒト・マウス癌細胞株に共通して低酸素・低栄養で特異的に発現誘導される特徴的な遺伝子群をマイクロアレー解析から発見している。この遺伝子群に対するsiRNA/shRNA等による抗腫瘍効果をマウス腫瘍移植実験において解析し分子標的の可能性を検討する。具体的には、エピジェネティック因子が低酸素・低栄養で特異的に発現誘導されること、siRNAによるこのヒストン脱メチル化酵素の特異的な阻害が腫瘍増殖を抑制することを見い出している。また、癌の進展にこのヒストン修飾因子を含むエピジェネティックスイッチが関連することを発見したが、そのメカニズムの詳細は明らかでない。siRNAによる抑制がin vitroの細胞増殖を抑制しないことを見い出しているため、血管新生因子の発現制御やin vivoの血管新生(CD31)やマクロファージ系細胞(CD11b)の浸潤を抑制する可能性があるか検討する。さらに我々は、腫瘍血管等の腫瘍微小環境に作用する新しい癌の増殖抑制法を見出し特許出願している。これらの分子で同様の解析、検討を行う。具体的には、標的分子候補をsi/shRNAで阻害したヒト癌細胞をヌードマウスの皮下に移植し、抗VEGF中和抗体(avastin 1mg/kg/week i.p.)、低分子阻害剤(sutent 10mg/kg/day p.o.)との併用で抗腫瘍効果を測定し、siRNAによるこれらの因子の特異的阻害がavastinやsutentなどの血管新生阻害剤との併用でin vivoで相乗的な腫瘍抑制効果をがあるものを明らかにする。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究は東京大学先端科学技術研究センターで行い必要な設備備品が揃っているため、新規に設備備品費は必要ない。本研究を行うにあたり、細胞生物学的実験に使用する細胞培養用のピペット、プレート、培地、血清等と分子生物学的実験に使用する抗体を含めた生化学試薬等の消耗品費が必要である。 また、低酸素・低栄養に抵抗性となる癌細胞の原因遺伝子の候補分子については、ヒト及びマウス由来の腫瘍細胞株を用いてin vivoのマウス腫瘍移植実験による制癌実験を行う。そのため、腫瘍移植実験用のマウス(B6, nude nu/nu, scid/scid)と飼育飼料、床敷等の消耗品費が必要である。 我々は、低酸素・低栄養下で発現亢進するヒストン脱メチル化酵素を見出しているが、これらの因子をノックダウンすることにより低酸素・低栄養下におけるヒストン脱メチル化酵素の標的因子の検索を試みる必要がある。方法としてsiRNA及びshRNAを用いて遺伝子をノックダウンする。また研究の計画として、転写因子やヒストン脱メチル化酵素をノックダウンした後、マイクロアレイを使って遺伝子の網羅的な解析を行い新しい標的因子の候補を絞り出す。これらsi/shRNA、マイクロアレイの試薬等にかかる経費も必要である本研究の研究費用は、主に消耗品に、また、一部を海外・国内出張のための経費に使用する予定で、本研究期間に必要な実験の消耗品、出張のための経費が必要である。
|