2012 Fiscal Year Research-status Report
癌微小環境中における乳癌浸潤過程の生体機能イメージング
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23701053
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
上岡 裕治 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (50511424)
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Keywords | 生体イメージング / FRET / ERK / PKA / 低分子量Gタンパク質 / Rhoファミリー / 乳癌 |
Research Abstract |
本研究の目的は、蛍光タンパク質からなるFRET(蛍光共鳴エネルギー移動)バイオセンサーを用いて、細胞運動を制御するRhoファミリー低分子量Gタンパク質の時空間的活性パターンを生きた動物内で可視化すること、さらに癌と正常組織によって構築される癌微小環境が癌細胞の浸潤過程をどのように促進しているのかを調べることである。 申請者は前年度までに、FRETバイオセンサーを発現する細胞株ならびに遺伝子組換えマウスを作出することに成功した。また麻酔下のマウスを長時間維持し、拍動等の影響を抑える生体イメージングシステム構築をスタートさせた。 平成24年度はこの生体イメージングシステムに改良を重ねて、生体内の生理的な環境を維持することを主な目標とした。具体的には、「skin flap法」よりも安定でかつ低侵襲な観察システムを構築することを目標とした。予定していた「ニードル型レンズ」を用いて条件検討したが、画質の面で問題があったため、このレンズの採用を見送り、別のイメージングシステムを現在も検討中である。 またこれと並行して、癌細胞が肺へ浸潤・転移する過程に注目して、肺の生体イメージングシステム構築を行った。癌細胞が血流に乗って肺組織まで到達し、生着する瞬間を詳細にとらえることに成功した。 さらに、申請者らのグループはFRETバイオセンサー発現マウスを用いて腸発生期の細胞運動におけるRhoファミリー低分子量Gタンパク質の働きを調べ、論文に発表した。 (J Neurosci.2013;33(11):4901-4912. PMID: 23486961)
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要に記述した通り、申請者は平成24年度内の目標をほぼ予定通り達成した。「ニードル型レンズ」を用いて低侵襲な観察システムの構築を試みたが、現行のレンズよりも画質の面で劣り、拍動の影響を抑えることができなかったため、「ニードル型レンズ」の採用は見送った。代わりに生体サンプルを安定に保持するシステムを構築し、生体内の生理的な環境を維持するための改良を平成24年度以降も継続している。 一方、癌と癌周囲の間質細胞との相互作用を調べるために肺転移モデルを作成し、癌細胞が血流に乗って肺組織まで到達・生着する瞬間のERK、PKAの活性変化を生体イメージングによって観察した。また、薬剤や刺激因子に対する反応性が乳癌細胞と他の癌細胞(大腸癌細胞)との間で異なるかをin vitro、in vivoで比較し、浸潤を促進する乳癌特異的な因子の同定を現在試みている.
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度には、癌細胞と間質細胞(血管内皮細胞、免疫系細胞、繊維芽細胞など)との相互作用が行われる際のERK、PKAおよびRhoファミリー分子の活性変化を捉える。 具体的には、免疫細胞をマウス脾臓、リンパ節から回収し、蛍光色素標識してから同系統の担癌マウスに戻してライブイメージングを行うことにより、癌細胞と免疫細胞の物理的接触が起こる瞬間でのシグナル伝達分子の活性変化を捉えられると考えている。 また癌中心部では癌辺縁部に比べて、低酸素・低栄養状態であることから、シグナル伝達分子の働きにも違いがあることが既に報告されている。しかし、生体組織を用いて癌中心部と癌辺縁部でERK、PKAおよびRhoファミリー分子の活性変化がどのよう見えるのかを調べた報告はなく、本研究で初めて明らかにできると期待している。 さらに、平成25年度にはマウス固定法、イメージング手法の改良続いて、定量解析に向けたデータ解析の改良を行う。具体的には、拍動する画像を補正し、選択した細胞を追跡し、ほぼ自動でデータ抽出するプログラム作成を目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度中には、長時間安定してマウスを維持できるイメージングシステムをほぼ完成した。また、細胞増殖を司るERK、PKAの分子活性を生体イメージングできる段階にきたため、平成25年度は種々の試薬をマウスへ投与することで癌と間質細胞の相互作用(細胞間接触、刺激因子)を調べる。癌細胞または間質細胞を標識するための蛍光試薬・蛍光標識抗体、また刺激因子として用いるサイトカインや阻害剤などを平成25年度に計上する予定である(約80万円)。これらの試薬は少量で高価なものが多く、マウス個体に注射して使用すると、一回の投与で数千円から一万円ほどかかる。 また平成25年度は、細胞運動・浸潤過程を司るRhoファミリーの分子活性イメージングを予定している。Rhoファミリーのバイオセンサーは細胞膜に局在化させているため、大量に細胞内に大量に発現させると細胞膜上のシグナル伝達を阻害し、細胞毒性が現れる。そのため、比較的安定して細胞質に局在するERK、PKAのバイオセンサーよりもイメージングが難しいため、蛍光検出感度の向上を図る必要がある。このため顕微鏡の光学フィルターなどを見直し、最適化を行う。(約20万円) また扱うマウス数が増えることが予想されるためにマウス関連消耗品(ディスポーザブル飼育容器、麻酔薬など)で30万円を計上した。3年間の成果をまとめた論文投稿準備の費用として30万円、海外学会参加費として30万円を予定している。
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Research Products
(5 results)