2011 Fiscal Year Research-status Report
乳癌細胞の浸潤・転移におけるイノシトールリン脂質の機能解析
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23701069
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Research Institution | National Cancer Center Japan |
Principal Investigator |
山口 英樹 独立行政法人国立がん研究センター, 研究所, ユニット長 (10345035)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 癌 / 浸潤突起 / イノシトールリン脂質 |
Research Abstract |
浸潤能を持つ癌細胞を生理的な細胞外基質上で培養すると、細胞外基質を分解する活性を持つ、浸潤突起と呼ばれる構造が細胞底部に観察される。浸潤突起にはアクチン繊維、アクチン制御タンパク質、シグナル伝達分子、細胞外基質分解酵素などが集積する。浸潤突起は様々な浸潤性癌細胞により形成され、癌細胞の浸潤突起形成能と浸潤、転移能には強い相関がみられる。従って、浸潤突起は癌細胞が周辺組織を浸潤する際に機能し、癌転移において重要な役割を果たすと考えられている。しかし浸潤突起形成の分子機構は未だ不明な部分が多く、特にどのような形質膜上のシグナルが浸潤突起形成を制御しているのか明らかになっていない。そこで本研究では形質膜上のシグナル伝達脂質であるイノシトールリン脂質とその産生代謝酵素の関与を明らかにすることを目的とした。多様な細胞内シグナルを制御するイノシトールリン脂質の一つ、PI(3,4,5)P3の転移性乳癌細胞における局在を解析したところ、浸潤突起に局在することが分かった。次にPI(3,4,5)P3産生酵素であるPI3キナーゼの機能解析を行った結果、PI3キナーゼアイソフォームの一つであるp110alphaが浸潤突起形成に必要であることが明らかになった。p110alphaは多くの癌で活性化変異がみられ、癌の進展に寄与することが報告されている。そこでこの活性化変異を持つp110alphaを乳癌細胞に導入したところ浸潤突起形成が促進された。また下流シグナル伝達系の機能解析を行った結果、PI(3,4,5)P3のエフェクター分子であるAktとPDK1が浸潤突起形成を制御することが分かった。以上の結果から、イノシトールリン脂質の産生と下流シグナル伝達経路が浸潤突起形成を介した癌細胞の浸潤過程に深く関わることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当該年度に予定していたPI(3,4,5)P3の浸潤突起における局在と機能解析、p110alphaの機能と活性化変異体の浸潤突起形成に対する影響の解析、下流エフェクター分子であるAkt及びPDK1の機能解析を全て終え、これらの研究成果をまとめた論文を報告するに至ったため。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はさらに詳細にp110alphaを介したシグナル伝達経路の機能解析を行う。p110alphaは触媒サブユニットであるが、その活性を制御する調節サブユニットp85alphaについてもいくつかの癌において変異が認められ、p110alphaの恒常的活性化につながることが最近報告されている。そこでp85alphaについても浸潤突起形成への関与を検討する。PI3キナーゼによるPI(3,4,5)P3産生を負に制御する脱リン酸化酵素PTENも癌抑制遺伝子であり、癌浸潤・転移に関与する事が示されているため、PTENの機能解析についても考慮する。また、浸潤突起及びp110alphaの癌転移における機能を動物モデルを用いて明らかにする。shRNA発現コンストラクトをルシフェラーゼを発現する乳癌細胞に導入し、ヌードマウスに移植して生体イメージング法により癌浸潤・転移への影響を解析する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度はいくつかの費目について予定よりも支出が少なかったため、残額を次年度使用研究費として繰り越した。今年度はこの額と新たに請求する研究費を合わせ、細胞培養消耗品、試薬、実験動物の購入、研究成果発表(海外及び国内学会発表、英文論文発表)費用、研究補助員人件費などに使用する予定である。
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