2011 Fiscal Year Research-status Report
大腸癌臨床検体を用いたリン酸化プロテオーム解析およびSRM/MRM法による検証
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23701093
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Research Institution | 独立行政法人医薬基盤研究所 |
Principal Investigator |
白水 崇 独立行政法人医薬基盤研究所, 創薬基盤研究部, 研究員 (00582678)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 大腸癌 / プロテオミクス / バイオマーカー |
Research Abstract |
【研究の目的】本研究では、大腸癌患者組織を用いた大規模リン酸化プロテオーム解析により、バイオマーカー候補となるリン酸化タンパク質の探索を行う。【23年度の成果】検体組織の難溶性の画分に存在するタンパク質も含めた網羅的なプロテオーム解析を行うため、界面活性剤を用いたタンパク質の抽出法の最適化を行った。抽出方法として、PTS法(Phase Transfer Surfactant:相間移動溶解法)、FASP法(Filter Aided Sample Preparation)の比較検討を行ったところ、組織からのペプチド回収率、サンプル処理中のタンパク質分解や脱リン酸化への影響といった点から、FASP法の方が優れていた。次に、抽出したサンプル中の微量なリン酸化ペプチドの濃縮法について検討した。金属カラムを用いた濃縮法として、IMAC法(Immobilized Metal-ion Affinity Chromatography)とHAMMOC法(Hydroxyl Acid Modified Metal Oxide Chromatography)で比較検討を行ったところ、回収率と濃縮率で共にIMAC法が上回った。これらの条件検討の結果、大腸癌臨床検体より10000以上のリン酸化ペプチドが同定された。この同定数はこれまでに報告された、臨床組織を用いた同様の研究を大幅に上回る。次に同定結果について、パスウェイ解析ソフトIngenuity (Ingenuity Systems)を用いたリン酸化シグナルのパスウェイ解析を行ったところ、細胞間接着や細胞極性形成など、癌転移に関わるシグナル経路の分子について、これまで知られていないタンパク質リン酸化の変化があることが確認された。これらのリン酸化タンパクを新規のバイオマーカーの候補とした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度研究実施計画に記した3つの項目毎の達成度について以下に示す。1.大腸癌組織での定量的リン酸化プロテオーム解析技術の最適化:タンパク質の可溶化、消化の過程において、特にタンパク質分解や脱リン酸化が同定数に大きくの影響することが予備実験でわかったため、界面活性剤と変性剤の濃度や種類について最適な条件を検討した。PTS法とFASP法で比較検討し、FASP法においてリン酸化ペプチドの回収率および同定数が最も良くなる条件を決定した。ペプチド濃縮法の検討においては、IMAC法とHAMMOC法の組み合わせにより、同定数が増加するか検討したが、サンプル処理量が多いとHAMMOC法においては、リン酸化ペプチド濃縮率が著しく低下したため、IMAC単独での精製が最もリン酸化ペプチドの同定数で優れていた。2.質量分析計によるリン酸化ペプチドの同定・定量:検討した条件で臨床サンプルを処理し、LTQ Orbitrap Velosによる大規模解析を行った。3.リン酸化シグナル経路のパスウェイ解析:パスウェイ解析ソフトIngenuity (Ingenuity Systems)用いて、同定されたリン酸化ペプチドの比較定量解析をインフォマティクスによる解析を行ったところ、癌の悪性化に関わるパスウェイに関わる分子の新規リン酸化部位のリン酸化量が変化していることが確認された。また、同定されたリン酸化部位に対するキナーゼについて、キナーゼ予測ソフトウェア(NetworKIN)による解析を行い、予想されるキナーゼについての絞込みを行った。以上、当初計画からの変更された点もあるが、変更により多くは改善された。計画していた3つの項目については達成できたので、概ね予定通りの進行であると評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
候補リン酸化タンパク質の機能解析およびバイオマーカーとしての検証同定されたバイオマーカー候補のリン酸化タンパク質について、癌悪性化に関連する機能解析を行う。具体的な方法として、リン酸化部位特異的抗体での免疫染色による細胞/組織内での局在の観察、リン酸化部位に変異を加えた遺伝子の培養細胞への導入実験等を行う。In vitroでの機能解析には、癌の浸潤、転移能への影響についてmigration assay やmatrigel invasion assay を行う。また、候補リン酸化タンパクに対するキナーゼの探索を行う。NetworKINやパスウェイ解析などにより予測されたキナーゼに対し、候補分子へのリン酸化活性があるかどうかを検討する。方法としては、予測キナーゼの細胞内強制発現とリン酸化抗体またはSRMによる検証を行う。2.候補リン酸化タンパク質のバイオマーカーとしての検証SRM/MRM 法によるハイスループットな解析では、一度に100 種類以上のマーカー候補の検証が可能である。少数の検体に対して検証された候補分子について、さらに多検体での検証を行うことでバイオマーカーとしての有用性を検証する。3.バイオマーカー候補を用いた大腸癌の診断法の開発多検体での検証でバイオマーカーとしての有効性が示された候補について、最終的に数種類に絞り込んで、大腸癌の早期発見や病態の進行の把握などに有用なマルチマーカーパネルの作成を目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究の推進方策に従った、研究費使用内容を以下に示す。候補リン酸化タンパクの機能解析:候補リン酸化タンパク質に対するリン酸化抗体、発現解析のための遺伝子、in vitroでの機能解析用 matrigel、その他細胞培養関連試薬類。バイオマーカーとしての検証:SRM/MRM用の合成ペプチド、および質量分析関連試薬類。
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Research Products
(4 results)