2011 Fiscal Year Research-status Report
新規鉄輸送促進剤によるHIFー1α抑制作用とその肝癌治療効果の解析
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23701094
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Research Institution | Asahikawa Medical College |
Principal Investigator |
田中 宏樹 旭川医科大学, 医学部, 特任助教 (70596155)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | HIF-1 alpha / 鉄 |
Research Abstract |
多くの癌細胞において転写因子であるHIF-1α蛋白質の発現が亢進している。HIF-1αは通常の酸素濃度下においてはHIF prolyl-hydroxylases (PHDs)により水酸化され,速やかに分解されるが,低酸素下では安定化し,生体内での低酸素応答に役立っている。しかし,癌組織におけるHIF転写活性は血管新生,細胞増殖,浸潤・転移,薬剤・放射線抵抗性などを促進し,癌の進展や治療抵抗性に関与している。Deferoxamineなどの鉄キレート剤を培養液に加えて細胞を培養するとHIF-1αの発現が亢進することが知られている。これはHIF-1α蛋白質の分解を促進するPHDsの活性に必要な鉄が不足するためであると考えられている。このことは細胞内への鉄の取り込みを促進すればHIF-1α蛋白質の分解が亢進され,腫瘍の進展を抑制できる可能性を示唆している。本研究の目的は新規化合物LS5-81の細胞内への鉄運搬作用を利用してHIF-1αの発現を抑制し,肝癌細胞の増殖・進展を抑制することである。 当該年度は主にin vitroの実験により新規化合物LS5-81がHIF-1αの発現を抑制するかどうかを検討した。ヒト肝癌細胞株HepG2,Hep3Bをジメチルスルホオキシド (溶媒コントロール),LS5-81あるいはクエン酸鉄アンモニウム(FeAC)をそれぞれ単独,LS5-81とFeACを混合して培養液に加え培養を行った。それらの細胞から蛋白質を抽出してウェスタンブロット法によりHIF-1 alpha蛋白質の発現量を評価した。その結果,LS5-81とFeACを混合して加えた場合のみでHIF-1α蛋白質の発現量が低下した。この結果はLS5-81による細胞内への鉄運搬作用がHIF-1αの発現を抑制するということを示しており,この化合物が肝癌の治療薬として有効に働く可能性を示唆するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は新規化合物LS5-81が肝癌の治療に利用できるかどうかを解析することである。研究期間の最終年度までには動物個体を用いて抗がん作用を解析する予定であるが,研究の開始年度である当該年度の目的は,培養細胞を用いた解析で治療標的分子の発現量がこの化合物により抑制できるかどうかを確認することであった。 LS5-81による細胞内への鉄運搬作用が培養肝癌細胞株においてHIF-1αの発現を抑制することが明らかとなり,今後の実験に用いるLS5-81の至適濃度も把握できた。当該年度の結果により次年度以降の解析をスムーズに進めることが可能となるため,おおむね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は主に,LS5-81によるHIF-1αの抑制機構と動物個体を用いた肝癌モデルにおいてLS5-81が治療効果を示すかどうかを明らかにしてゆきたい。 HIF-1α蛋白質は常圧酸素環境下では速やかに分解されるが,この分解過程は水酸化酵素であるPHDsがHIF-1α蛋白質を水酸化することで活性化される。この水酸化反応には酸素と鉄が必要とされ,Desferoxamineなどの鉄キレート剤を培養液に加えて細胞への鉄の取り込みを抑制するとHIF-1αの分解が抑制されることが知られている。これらのことはLS5-81によるHIF-1αの抑制機構は,鉄の細胞内への取り込みが促進したことによってHIF-1αの水酸化が亢進することによるものであると予想される。そこで次年度以降は以下のように研究をすすめることとする。1. 野生型HIF-1α発現ベクターとHIF-1αの水酸化部位を置換した変異型HIF-1α発現ベクターをそれぞれ肝癌細胞に遺伝子導入し細胞株を樹立する。それぞれのベクターは内在性のHIF-1αと区別するためにFLAG抗原で標識されるように構築しておく。細胞株をLS5-81と鉄の存在下で培養し,野生型HIF-1α,変異型HIF-1α蛋白質の発現量を抗FLAG抗体により検討する。2. 免疫欠損マウスの皮下に移植可能なHep3B細胞を移植し腫瘍を形成させる。このマウスに対しLS5-81と鉄を一定期間腹腔内投与し、腫瘍経を経時的に計測する。その後、腫瘍と周辺組織を採取し病理組織学的に血管や間質組織への影響についても必要に応じて免疫組織染色なども行いながら詳細に検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究では,主に野生型HIF-1α発現ベクターと変異型HIF-1α発現ベクターを構築するための酵素およびその蛋白質発現を確認するための抗体,肝癌細胞の増殖活性を解析するための試薬といった消耗品の購入に研究費を使用する。
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Research Products
(4 results)