2011 Fiscal Year Research-status Report
レトロウイルスベクターの細胞特異的組み込み領域の解析
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23701099
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
吉野 和寿 信州大学, 医学部, 助教 (40551859)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | レトロウイルスベクター / X連鎖重症複合免疫不全症 / insertional mutagenesis / IL-2レセプターγ鎖 / 遺伝子治療 |
Research Abstract |
遺伝子治療による治療の完全な成功例は、2000年に報告されたMLVベクターに組み込んだIL-2レセプターγc鎖によるX連鎖重症複合免疫不全症の治療である。しかし、成功のわずか2年後に治療を受けた小児が白血病を発症した。insertional mutagenesisによる原がん遺伝子、LMO2の活性化が発癌に大きく関わっていると推定されている。これまでLMO2遺伝子近傍へのベクター挿入確率を含め、個々の遺伝子のプロモーター領域のベクター組込みの定量的解析は行われていない。従って本研究は、遺伝子のプロモーター領域に的を絞った定量的ベクター組込み解析としては初めての試みとなる。そこでヒトリンパ球細胞を用いて染色体にベクターが挿入された1135個の細胞クローンを得た。Mouse retroviral tagged cancer gene database (RTCGD)はMLVを感染させたマウスから生じた腫瘍細胞からゲノム上のウイルス組込み位置を特定したデータベースである。即ち、RTCGDにおけるウイルス組込み部位はポテンシャルなproto-oncogeneと考えられているので、決定したベクター挿入位置とこのデータベースを比較検討し、一致するBLK、ITGA4、LMO4、MEF2C、NFKB1、PTK2B、RGS1、RUNX1、DUSP2、 PLAG1などを見出した。また、同じ遺伝子座に複数の組込みのあるhotspotとして、多いものからRGS1(8個)、TMEM49(7個)、ITGA4(5個)、BRMSIL(5個)、TNIK(4個)、NOX3(4個)、Raptor(4個)、MYC(3個)、GPR15(3個)、RDX(3個)、EDG1(3個)、TNFSF4(3個)などを見出した。以上よりPCRによって染色体に組込まれたベクターを検出する条件は、ほぼ確立できたと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
PCR法を用いてレトロウイルスベクターの遺伝子上流域の挿入確率を調べているが、PCRの基準遺伝子を既に同定しているため、この基準遺伝子を常にコントロールとして実験を進めることが出来る。また、これまで報告のあったウイルスベクター組込みのデーターと比較しても、我々が得た組込み部位の頻度はほぼ同等であることから、今後PCRを用いたデーターの蓄積によってさらに精度が高まると期待できる。一方、high incidence region同定のための解析基盤とするためのhotspotを同定した。従って、このhotspotにおいて先ずhigh incidence region探索を行い、さらに検出条件を整える必要があるが、その手筈が整った。
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Strategy for Future Research Activity |
レトロウイルスベクターの挿入頻度の高い、我々がhigh incidence regionと名付けた領域の同定には、相当量のPCRを行わなければならない。この点が最も高いハードルとなる。従って、効率よくPCRを実行することが要となる。一方、ウイルスベクター組み込みによる発がんは、これまでの報告でIL-2レセプターγc鎖発現ベクターが多いことが分かっていた。近年様々な治療用遺伝子を持ったベクターが使用された結果、IL-2レセプターγc鎖による発がんが飛び抜けて高いことが再確認された。従って、IL-2レセプターγc鎖とベクター組み込みの組み合わせの解析を進める必要がある。この実験は、細胞レベルの解析となり、時間を要することから、早々に開始する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度はウイルスベクター高頻度挿入領域であるhigh incidence regionの解析を予定している。high incidence regionの同定には大量のPCRを行う必要があり、さらにはその遺伝子配列の解読にも費用が掛かる。また、細胞レベルでのIL-2レセプターγc鎖機能解析を行う予定であるので、その遂行に必要となる細胞培養及び生化学的解析のために必要な器材や培地を始めとした試薬の購入に際し、相応の費用を要すると見込まれる。
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