2012 Fiscal Year Research-status Report
レトロウイルスベクターの細胞特異的組み込み領域の解析
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23701099
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
吉野 和寿 信州大学, 医学部, 助教 (40551859)
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Keywords | レトロウイルスベクター / X連鎖重症複合免疫不全症 / insertional mutagenesis / IL-2レセプターγ鎖 / 遺伝子治療 |
Research Abstract |
遺伝子治療による治療の完全な成功例は、2000年に報告されたMLVベクターに組み込んだIL-2レセプターγc鎖によるX連鎖重症複合免疫不全症の治療である。しかし、成功のわずか2年後に治療を受けた小児が白血病を発症した。insertional mutagenesisによる 原がん遺伝子、LMO2の活性化が発癌に大きく関わっていると推定されている。これまでLMO2遺伝子近傍へのベクター挿入確率を含め、個々の遺伝子のプロモーター領域のベクター組込みの定量的解析は行われていない。従って本研究は、遺伝子のプロモーター領域に的を絞った定量的ベクター組込み解析としては初めての試みとなる。23年度は染色体に組込まれたベクターを検出する安定的条件を確立したことから、LMO2以外の原がん遺伝子の中から1つを選び、本方法でプロモーター領域解析を行った。原がん遺伝子の上流で100kb間に3個のベクター組み込みが報告されているCCND2を選択した。CCND2の上流1.5kb にprimerを設定し、同様にLMO2の上流1.5kbに設定したprimerをコントロールとした。LMO2のprimerとウイルスベクター3’LTRのprimer間のPCRを行ったところ24/112(検出数/サンプル数)の結果を得、CCND2のprimerとウイルスベクター3’LTRのprimer間のPCRを行ったところ8/91であった。同様にLMO2のprimerとウイルスベクター5’LTRのprimer間のPCRを行ったところ31/112であり、CCND2のprimerとウイルスベクター5’LTRのprimer間のPCRを行ったところ19/98の結果を得た。研究者間で100kb間に3個のベクター挿入のある領域をhotspotする場合が多いが、今回の結果はhotspot領域の解析に本方法が適用できることを示唆した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度のポイントは原がん遺伝子のプロモーター領域の解析が実際に可能かどうかを確認することである。レトロウイルスベクターが挿入される領域は数百キロ塩基対に亘り、一方、PCR法を用いた我々の方法は2キロ塩基対前後が有効な探索範囲である。100キロ塩基対当たり3個のベクター挿入が、いわゆるhotspotと呼ばれる領域で、ベクターの挿入確率が高いと考えられている。しかし、100kbと探索可能な2kbの間の格差は大きく、我々が開発した方法の有効性を確認する必要性がある。そこで既に述べたように、現在報告されているhotspot領域の中から、原がん遺伝子CCND2のプロモーター領域に焦点を当てて、PCRを用いた本方法を試み、本方法の有効性を確認することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
我々がhigh incidence regionと名付けた領域の同定には、hotspot領域よりレトロウイルスベクターの挿入頻度の高いが、それでも相当量のPCRを行わなければならない。今回のCCND2のプロモーター領域の結果は、全てのhotspot領域に当てはまらないとしても、いくつかのhotspot領域は我々のPCR法が有効に働くことを示唆した。従って、今後の解析はhotspot領域が検出されていない、つまりベクター挿入確率が低いにも関わらず、insertional mutagenesis に関わっていると思われる遺伝子の解析が重要となる。その一つがIL-2レセプターγc鎖である。IL-2レセプターγc鎖プロモーター領域へのウイルスベクター組み込みによる発がんは、現在の所、マウスの系のみであるが、ヒトの遺伝子治療での白血病は、IL-2レセプターγc鎖の発現とがん化が密接に関わることを示唆している。従って、先ずIL-2レセプターγc鎖のプロモーター領域解析が必要と考えられる。IL-2レセプターγc鎖遺伝子の上流1.5kbにprimerを設定してPCRを行う予定である。この領域はこれまでの報告からhotspotではないと推定されていることから、解析は困難を伴うと予想される。予想される困難の1つはベクター挿入が検出されない場合、実験系でPCRが働いているかどうかを先ず検証する必要があるだろう。他方、マウスの系で、IL-2レセプターγc鎖発現ベクター挿入による発がんが飛び抜けて高いことが再確認されていることから、ヒトT細胞を用いてIL-2レセプターγc鎖発現ベクター挿入による発がんをスクリーニングする必要がある。T細胞がん化の指標として、IL-2依存性細胞増殖のIL-2非依存性細胞増殖への変換を用いる。以上の2点を今後の解析の重点とする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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