2011 Fiscal Year Research-status Report
海洋堆積物中微生物の有機物分解に果たす役割と底生動物への有機物転送への寄与の解明
Project/Area Number |
23710010
|
Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
國弘 忠生 愛媛大学, 沿岸環境科学研究センター, 研究員 (90512690)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
Keywords | 微生物 / 水圏現象 / 海洋生態 / キノンプロファイル / 安定同位体標識法 / 物質循環 / 食物網 / イトゴカイ |
Research Abstract |
海洋の有機汚泥域に生息する堆積物食性小型多毛類は,堆積物を撹乱して微生物の増殖を促し,増殖した微生物を餌にしていると推測されており,この現象はガーデニングと称されている.ガーデニング仮説を立証することは,微生物-底生生物の相互の生態学をより深めることに繋がる.本研究では,海底の有機汚泥化の進行に伴って堆積物食性多毛類が優占する現象と海底環境の自浄作用メカニズムについて有機物,微生物,多毛類の三者の関係を明らかにすることを目指している.平成23年度は以下の内容に取り組んだ.1)堆積物中の有機物量と細菌の量・群集構造の関係解析:瀬戸内海8海域(9試料)および愛媛県南宇和郡愛南町南部海域の養殖場周辺(13試料)から採取された堆積物の有機物量,アミノ酸組成,キノンプロファイル,リン脂質脂肪酸プロファイル(PLFA)を測定・分析した.キノンプロファイルに基づくクラスター分析により微生物群集の相違を定量化し,得られたグループごとに有機物量とキノン量の関係に相違が見られた.有機物量の増加に伴いAlphaproteobacteriaの存在割合が上昇する傾向にあることが示された. 2)安定同位体標識法を利用した堆積物有機物を資化する細菌群の特定:微生物群集構造が大きく異なる沿岸域(瀬戸内海伊予灘)と有機汚泥域(愛媛県南宇和郡愛南町南部海域の養殖場)から堆積物試料を採取し,採取した試料に13C標識された基質6種類をそれぞれ添加して培養後に分析試料とした.現在,分析を進めている.3)堆積物中の有機物資化細菌群のイトゴカイによる摂食の評価:同様の実験系を用意し,13C標識物質添加後に培養し,さらに人工的に培養したイトゴカイを実験系に添加し,堆積物中の有機物が細菌を介して堆積物食であるイトゴカイに輸送されているプロセスを明らかにする実験を行った.現在,分析を進めている.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成23年度は,堆積物中の有機物資化細菌の系統学的位置を明らかにすることを目的とし,堆積物中のアミノ酸組成と微生物相の関係解析を行い,細菌の利用しやすいアミノ酸を特定して,それを13C標識物質の候補に加えて安定同位体標識法により細菌系統分類群ごとの有機物利用を解析する予定であった.しかしながら,標識物質を実際に取り込むか否かは予備実験を何度か行う必要があり,実験系の立ち上げ自身に要する時間も考慮すると,時間に対して得られる成果に乏しいと考えた.そこで既往の知見を元に利用しやすいと言われているアミノ酸を複数とアミノ酸混合物,さらにグルコース,ピルビン酸といったアミノ酸以外の有機物も13C標識物質として用いることにした.それにより,実験に要する検討時間を大幅に短縮した.加えて複数のバイオマーカーで13Cの流れを評価することにより得られる結果の信頼性向上に繋がった.上記の理由から,平成24年度後半から平成25年度前半に予定していた実験を前倒しして実施できた.また,実験結果が予想される結果ではなくても,再実験をする時間を十分に確保することができた.これらの効率の向上には,安定同位体標識法を用いた研究に長けているオランダ海洋研究所 (NIOZ Yerseke)の研究員らに協力を仰ぎ,研究体制をより強固にしたことが大きな要因である.予定を繰り上げて実験を行っているため,十分に目標を達成できる状況にある.
|
Strategy for Future Research Activity |
[研究の推進方策]:本研究で計画していた実験は今年度にすべて終えたので,実験により得られた試料の分析・解析を進める.特に,3つある研究課題の内の2)安定同位体標識法を利用した堆積物有機物を資化する細菌群の特定および3)堆積物中の有機物資化細菌群のイトゴカイによる摂食の評価について,名古屋大学エコトピア科学研究所に出張しキノンの安定同位体比を測定し,オランダ海洋研究所に出張し堆積物,リン脂質脂肪酸,アミノ酸の安定同位体比を測定し,これらの結果とすでに得られている結果を統合して解析する.平成13年度に得られた堆積物中の有機物量と細菌の量・群集構造の関係について解析を進めて,夏に国際誌に投稿する.[研究を遂行する上での課題]:研究は計画よりも早く進んでいるが,期待される実験結果が得られなかった場合には,実験系を見直して再度実験する.
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度の次年度使用額(509,283円)の内,413,897円については4月支払いである.これについては,主に2月末から3月中旬にかけてのオランダ海洋研究所への出張と分析に要した費用にあたり,当初の計画よりも少額で済ませることができたために残額(95,386円)が生じた. 翌年度は,今年度の実験により得られた試料の化学分析および遺伝子解析に要する物品費を多く計上している.出張費には,7月に滋賀県大津市で開催される2012 ASLO Aquatic Sciences Meetingにおいて安定同位体標識法に関して情報を得るための経費,9月にオランダ海洋研究所に各種バイオマーカーの分析および得られた結果の議論のための経費,名古屋大学でのキノンの安定同位体比測定および結果の議論のための経費を計上している.また,英語論文校閲費を計上している.
|
Research Products
(5 results)