2011 Fiscal Year Research-status Report
湖沼における浮遊細菌を介した溶存有機物の動態解明に向けた新たな展開
Project/Area Number |
23710023
|
Research Institution | National Institute for Environmental Studies |
Principal Investigator |
渡邊 圭司 独立行政法人国立環境研究所, 地域環境研究センター, 特別研究員 (50575230)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
Keywords | 微生物ループ / 物質循環 / 溶存有機物 / 浮遊細菌 / 湖沼環境 |
Research Abstract |
日本の11湖沼および1河川より、世界中の湖沼に遍在および優占種として検出されるが(時として全細菌の60%以上)、これまで難培養もしくは未培養クラスターとして広く知られていた主要浮遊細菌群の分離および培養に成功した。炭素源資化性試験より、得られた浮遊細菌株のほとんどが糖質およびアミノ酸には資化能を示さず、炭素源として有機酸に強く依存していることを明らかにした。一部の浮遊細菌は、糖質への資化能を示し、系統分類群による資化性の違いも明らかとなった。以上の結果より、主要浮遊細菌群を介した湖内炭素循環において、有機酸の生成(溶存有機物の光分解もしくは一次生産からの)および浮遊細菌による取込み経路の重要性が示唆された。 湖水の溶存画分を石英ビンに入れ屋外で光分解を行ったところ、ギ酸や酢酸がマイクロモルオーダーで生成することを明らかにした。炭素源資化性試験より、分離された浮遊細菌の多くは酢酸に対する資化能を示したため、浮遊細菌群は、水圏環境中において溶存有機物の光分解により生成した酢酸を取り込んでいると推定された。 また、本研究の中で、主要浮遊細菌群の一部は栄養源を巡る競合関係ではなく、溶存有機物の質や水温などと密接に関係した棲み分けをしている可能性が示唆された。これら主要浮遊細菌群の生態に関する知見は、世界的に見ても新規性が高く、今後重点的に研究を進めることとした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
先行研究により分離・培養に成功した浮遊細菌の他、新たにいくつかの難培養もしくは未培養クラスターに属している主要浮遊細菌群の分離および培養に成功した。先行研究および本研究を通じて得られた主要浮遊細菌群の分離株数は、世界でもトップクラスの保有数および種数となった。これら純粋分離された浮遊細菌株は、今後湖沼における浮遊細菌を介した溶存有機物の動態解明に関する研究を行う際に、貴重な研究材料となる。全ての分離した主要浮遊細菌群について炭素源資化性試験を行い、湖内においてどのような溶存有機物(炭素源)を取り込んでいるのかを詳細に明らかにしたが、生育に必須な窒素源に関しては現在までのところ一部未解明な部分を残している。 一方、本研究により主要浮遊細菌群の生育に必須な炭素源(有機酸)の供給経路の一つである、溶存有機物の光分解による有機酸の生成に関して、どのような有機酸がどのような濃度で供給されるのかを明らかにした。 また、研究を進める中で、主要浮遊細菌群の新たな純粋株の取得、および生態に関する新たな知見が得られ、今後さらに研究を進める上で幅が広がった。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究の中で、純粋分離された主要浮遊細菌群の多くが、炭素源として有機酸に強く依存していることを明らかにした。代謝される有機酸の種類は浮遊細菌間で類似しており、主要浮遊細菌群は、水圏環境中において厳しい栄養源を巡る競争をしているか、もしくは棲み分けをしていると推測された。日本の様々な湖沼から浮遊細菌の分離培養を行った実験結果より、2種の浮遊細菌間で、溶存有機物の質(自生性および他生性有機物の影響の強さの違い)により、湖沼型別に棲み分けがされている可能性が示唆された。また、ある種の浮遊細菌は、低水温期(5℃前後)に高頻度で培養法により検出されることが明らかとなり、低温環境へ適応していることが示唆された。主要浮遊細菌群は時として全細菌の50%以上を占めることもあり、湖内物質循環に重要な役割を果たしていると考えられることから、ヨーロッパを中心に培養過程を経ない分子生物学的手法による浮遊細菌の生態解明が、近年急速に進められている。しかしながら、培養法により明らかになったこれら主要浮遊細菌群の特徴は、これまで報告が無く新規性が高い。そこで今後の研究では、計画を一部変更し、主要浮遊細菌群間の棲み分けを培養法という新しい切り口で解明し、早急にこの分野における研究の優位性を築くこととした。 また、湖沼からの浮遊細菌の分離・培養実験の中で、これまで世界中の湖沼から未培養クラスターとして検出されていた主要浮遊細菌群の分離・培養に成功した。これらクラスターに属する浮遊細菌は、属レベル以上での新規性が高く、早急に新属新種の浮遊細菌として提案することとした。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究費には、主要浮遊細菌群の生育に必須な窒素源の解明、培養法による主要浮遊細菌群間の棲み分けの解明、および浮遊細菌の新属新種提案にかかわる消耗品費および委託分析費を計上した。また、国際・国内学会発表および誌上発表のための英文校正および掲載料にかかわる費用を計上している。
|
Research Products
(2 results)