2011 Fiscal Year Research-status Report
数値モデルを利用した屋外熱中症リスクの地域メッシュ評価
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23710047
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Research Institution | Okayama University of Science |
Principal Investigator |
大橋 唯太 岡山理科大学, 総合情報学部, 准教授 (80388917)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 熱中症リスク / 数値シミュレーション / 暑熱ストレス / 地域メッシュ・マップ |
Research Abstract |
屋外都市空間の暑熱ストレスを広域的に評価する数値モデルの開発・改良に着手した.計算対象地域には大阪市と東京都区部を選択し,数値計算に必要な入力条件の入手と整理を行った.気象場の初期値・境界値には気象庁の広域気象データ(メソ客観解析値)を使用した.一方,数値計算に必要な街区情報パラメータは,明星大学理工学部の亀卦川幸浩准教授から提供されたデータを使用した. 都市の流体気象モデルと建築エネルギー消費モデルの連成結合モデル(NCAR,産業技術総合研究所ら開発)に,人体の暑熱応答から温熱感覚を算出できる人体温熱生理モデルを組み込んだ.人体の温熱生理モデルにはGagge et al.(1971)によって提案された人体2層モデルを採用した. 以上の計算準備が完了した後,数値シミュレーションを試行した.猛暑が続き,最高気温や熱中症患者数の記録を更新した2007年及び2010年の夏期を対象に,前述の東京都区部と大阪市の暑熱ストレスマップをそれぞれ再現した.このときの暑熱ストレス評価には,日本の熱中症情報でよく使われるWBGT(湿球黒球温度)と,建築学分野の温熱感評価で使われるSET*(標準新有効温度)を採用した.また,計算領域内の空間解像度は1/2地域メッシュ(約500m四方)とした. 計算の結果,東京・大阪ともに500m解像度でも暑熱ストレスの地域差が明瞭に出現した.分析の結果,これは特に天空率など街区構造に強く依存しており,街区天空率の大きな住宅地域で高ストレスがみられることが明らかとなった. また,上述までの研究と並行して,西日本全域のより広域的な暑熱ストレスの再現についても数値シミュレーションで実施した.この解析は,上述の都市スケールで出現する暑熱ストレスの特徴との比較のために行った.すると,大阪や東京などの大都市以外の地域でも高いストレス分布が確認されることが明らかとなった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予め提出した研究実施計画では,平成23年度については数値モデルの導入と人体温熱生理モデルの結合化,その後の計算に必要な入力データの収集と整備が,おもな研究作業であった.さらに,実際に事例計算を東京都区部と大阪市に対して実施する工程まで含めていたが,この点についても概ね完了し,いくつかの学会等でも発表を行い,学術論文としても一部公表に至っていることから,現在の達成度は良好と言える.
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Strategy for Future Research Activity |
平成23年度に得られた結果をもとにして,東京特別区と大阪市を対象とした熱中症リスクのメッシュ・マップをそれぞれ作成し,有用性を検討する.国立環境研究所がホームページ上で公開する地域別・日別の熱中症救急搬送数データと環境省が公開する熱中症指標WBGTの観測データから,WBGTと熱中症発生率の関係式を特定化して熱中症リスク評価関数を作成する.この関数をもとに,計算された暑熱ストレスマップから熱中症リスクマップへと発展させることで,一般の人にもよりわかりやすい形で提供できるマップを検討する. また,得られた熱中症リスクの地域分布から,東京特別区と大阪市それぞれにおいて屋外の熱中症リスクが高くなりやすい地域を特定し,その要因を分析する. さらに,各種ヒートアイランド対策(建物・道路の緑化,建物の日射高反射化,建物・自動車の廃熱削減,冷房システムの水冷式化など)の都市域への広範囲導入に伴う熱中症リスクの低減効果を定量化することを試み,社会の要請に答えられる実用的評価手法の確立を目指す.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度の大学への研究費入金が遅れ,研究の遂行に必要な以下に示す未購入の物品を次年度研究費と併せて購入していく. 計算領域の街区構造や人口動態を視覚的に分析するためにGISソフト(Mapinfo)と人口メッシュ統計データ(株式会社JPS製作)を購入する.また,数値計算の過程で必要となるプログラミング・ソフト(PGF Fortran),気象データ(気象業務支援センター提供),メディア(DVD-RAMやHDDなど)などを適宜購入していく.これらは研究を円滑に進めるうえで重要となる.特に熱中症リスクのメッシュ解析で必要とされる. 計算結果の分析を行い学会発表や論文執筆に必要となれば,関連専門書籍を購入して質の高い研究成果を目指す.また,資料の作成に必要な関連物品についても引き続き適宜購入していく. 平成24年度以降は,研究成果を積極的に公表していき,社会と研究分野に貢献することが大切と考える.したがって,国内外の関連学会・会議で研究成果を積極的に発表していき,最終的には学術論文として成果を残すことを目指す.
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