2011 Fiscal Year Research-status Report
遺伝子汚染リスク下の森林経営~遺伝子組み換え樹木導入意思決定メカニズムの解明
Project/Area Number |
23710060
|
Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
木島 真志 琉球大学, 農学部, 准教授 (10466542)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
Keywords | 遺伝子組み換え / 遺伝子汚染 / 森林管理 / 空間モデル / シミュレーション |
Research Abstract |
本年度は,GM樹木の種子・花粉の分布拡散メカニズムについて,すでに発表されている生態学分野とその周辺分野の文献を調べ,最近の研究知見を収集し,情報の蓄積を行った.更に,ここで蓄積した情報をもとに,花粉・種子の拡散モデルのプロトタイプの構築を進めた. このプロトタイプモデルは空間的なシミュレーションモデルであり,セルベースで花粉・種子の拡散メカニズムを描写する.現時点では,任意の地点(セル)から,隣接するセル上を時間に応じて種子・花粉が拡散していく様子がシミュレーションかつ,可視化できるモデルが構築できている.また,これまでの文献の調査から,シミュレーションでは,単純化のため2つの遺伝子型,つまり,人工林において遺伝子組み換えされた樹木群と,そうでない野生の樹木群において,それぞれ,樹木の成長,繁殖,花粉・種子の拡散,競合などを描写し,人工林において生成された遺伝子組み換え樹木が,花粉や種子の散布により,野生の個体群へ拡散する可能性を有するようなモデル構築が必要であることが明らかになった.このようなメカニズムを捉えた空間的なシミュレーションモデルは,まだ開発途上であり,特に,隣接するセルを超えた長距離の拡散(long dispersal)を如何にモデルに組み込むかは大きな課題である.さらに,文献の調査から,管理と遺伝子組み換え樹木の拡散の関係については,限られた知見しか得られておらず,様々なシナリオ下におけるシミュレーション分析は,最適な管理の意思決定を探索するうえで,有効な情報提供に繋がることが分かった.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予定していた通り,GM樹木の種子・花粉の分布拡散メカニズムについて,様々な文献の調査をもとに知見を収集し,情報の蓄積を行うことができた.また,現在,ここで蓄積した情報をもとに,花粉・種子の拡散モデルのプロトタイプの構築を進めており,現時点では,任意の地点(セル)から,隣接するセル上を時間に応じて種子・花粉が拡散していく様子がシミュレーションかつ,可視化できるモデルが構築できている.今後,これまでの文献調査からGM樹木の種子・花粉の分布拡散メカニズムを描写する上で重要な要素として抽出した変数を扱ったモジュール(例:フェノロジ―のモジュール)を構築し,それらを上記の基本モデルに組み込み,プロトタイプのモデルが完成すれば,動的な意思決定ツールと組み合わせることで,時間スケールにわたり生じる不確実性を考慮し,一側面の環境的な便益や経済便益だけでなく,環境への影響を総合的に考慮した上で,便益とリスクを比較することのできるシミュレーションモデルの構築に繋がる.また,GM樹木の栽培は,高い移動性能をもつ種子・花粉により「意図した」範囲を超えて「遺伝子汚染」を起こす可能性があるため,この空間外部性を考慮して費用を内部化しなければ,過剰に「GM樹木の導入」という意思決定が選択される可能性がある.現在構築中のプロトタイプは,動的な意思決定ツールと組み合わせることで,このようなGM技術導入に際して,森林経営者が直面するトレードオフを的確に描写できる.
|
Strategy for Future Research Activity |
異なるGM技術を伴うGM樹木の導入は,時間を経て,異なる空間パターンの「遺伝子汚染」リスクを引き起こすため,GM樹木の導入の空間パターンの違いにより異なった費用・便益・リスクの空間トレードオフが生じる.経営者はこれらのトレードオフを考慮し,GM樹木導入の最適な空間配置を決定する必要がある. 今後は,このことを踏まえて,まず,上記プロトタイプのモデルをもとに,不均一な空間ランドスケープを対象に,人工林において導入された遺伝子組み換え樹木群と,野生の樹木群,それぞれの成長,再生,拡散,さらにそれらの競合をモデルに組み込み,仮想的なランドスケープに乱数を発生させ,人工林,野生個体群の様々な密度および空間的な分布シナリオを作成する.そして,GM樹木の種子・花粉の分布拡散の動的かつ空間的メカニズムを描写したシミュレーションモデルを構築し,シミュレーション結果を可視化する.さらに,人工林の配置,伐採,野生個体群の伐採など管理の意志決定モデルを上記GM樹木の種子・花粉の分布拡散シミュレーションモデルと統合した時空間管理・土地利用シミュレーションモデルの構築を行い,それを用いて,様々な管理・土地利用シナリオにおけるシミュレーション分析を行う.ここでは,数値実験として,GM技術改良の研究が進んでいる樹木を選択し,それを表すパラメータを用いて数値シミュレーションを行いGM樹木導入の最適空間パターンを探索する.
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
H23年度は,研究打ち合わせのための旅費を多く計上していたが,様々な文献が比較的容易に入手できたこと,電子メール等での打ち合わせが効果的に行われたことなどから,旅費としての支出が当初の予定よりも少なく済んだ. 次年度も引き続き,種子・花粉の拡散モデルの構築を進めるため,文献の収集等が必要になる.それゆえ,文献の収集に対して\20,000計上する.また,次年度は,本格的に数値シミュレーションを行うため,高速演算コンピュータが必要になる.特に,遺伝子汚染リスク下の最適な管理空間配置を決定するためには,空間配置パターンの分析が必要になるが,この場合,制御変数は離散的変数で表わすこととなり,シミュレーションによる最適解の探索には,非常に時間が掛かかる.このような探索を様々なシナリオについて行ったり,あるいは,感度分析を効果的に実行するためには,計算能力の高い,コンピュータの使用が不可欠であり,それゆえ,高速演算コンピュータの購入費用として,\250,000計上する.さらに,次年度は,本研究の最終年度であり,研究成果を学会やセミナー等で発表していくことになるため,国内外の旅費が必要になると考えられる.それゆえ,旅費として,\380,000計上する.
|