2011 Fiscal Year Research-status Report
カーボンフットプリント制度の検討―消費者・小売行動と環境負荷
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23710063
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
平湯 直子 早稲田大学, 社会科学総合学術院, 客員次席研究員 (10590705)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | カーボンフットプリント制度 / 消費者 / 小売 / 環境負荷 / CO2見える化 / 販売過程 / 店舗特性 |
Research Abstract |
本研究の目的は、現行のカーボンフットプリント制度(CFP制度)が商品種別算定基準に基づく供給者目線の制度であり、より現実に合う制度設計のためには、消費者サイドや小売段階の情報を追加することが有効であることを検証することにある。今年度は、特に食品の小売段階に着目し、食品別のライフサイクルCO2排出量の算出を行った。具体的には、食品スーパーより品目別販売金額データ及び店舗別光熱使用データの提供を受け、店舗の属性別(立地条件・商圏年齢)・過程別のCO2見える化指標の作成を行った。過程別として(1)商品の製造・店舗の輸送、(2)店舗光熱、(3)店舗発生廃棄物(可燃ゴミ)、(4)店舗使用資源材(レジ袋・トレー)、(5)店舗回収資源材(ビン・缶等)、(6)来店客自転車使用、(7)客廃棄(トレー・牛乳パック等)、(8)客回収協力(トレー・牛乳パック等)の8過程を設定した。算出にあたり、品目コードを2005年産業連関表基本分類コードに格付けした。また、CO2係数には炭素貯留効果分析用産業連関表の推計結果、廃棄物産業連関表家庭系廃棄物係数を使用した。これにより消費者の属性や購買行動と小売段階の販売行動を考慮した食品に関するCFPが過程別に明示された。CFP制度は、2010年7月の制度改訂において原単位の整備が不十分であることから販売過程の算出は暫定的に算定・表示の対象から除外された。販売過程は多いもので全排出の約25%以上を占めることが予想され、消費者に環境を考慮した最適化購買行動を求めるには、販売過程までを含めたCO2見える化指標が必要といえる。今年度の研究により、同じ商品でも販売店舗の属性や年齢構成によって金額1万円あたりのCO2誘発排出量に差が生じることが確認された。どの商品に対しどの部分での努力による削減が効果的であるかが確認でき、販売段階におけるCO2のデフォルト値の検討が可能な指標が得られたといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究(2年間)の目的は、現行のカーボンフットプリント制度をより実態に合致した制度とするために、各主体(消費者・事業者)の情報を追加することが有効であることを検証することにある。そこで初年度は、食品の販売段階に着目し、食品購入にともなうCO2排出量の算出をおこなうことを目的とした。食品スーパーから品目別販売金額及び店舗別光熱使用に関する企業業務データを入手し、店舗別・品目別の過程別のライフサイクルCO2排出量の算出をおこなえた。過程別として、(1)商品の製造・店舗の輸送、(2)店舗光熱(電力・ガス・水道)、(3)店舗発生廃棄物(可燃ゴミ)、(4)店舗使用資源材(レジ袋・トレー)、(5)店舗回収資源材(ビン・缶・段ボール・廃プラスチック・ミックスペーパー・食品リサイクル)、(6)来店客自転車使用、(7)客廃棄(レジ袋・トレー・牛乳パック・PETボトル)、(8)客回収協力(トレー・牛乳パック・PETボトル)の8過程を設定した。初年度の最大の成果は、CO2算定方法及び分析概念の枠組みを確立できたことにあり、今後、食品以外の分野への適用が可能であり、企業業務データを用いて比較的容易にライフサイクルCO2排出量の算出が可能であることが明らかとなった。また、日本LCA学会第7回研究発表会(2012年3月)において研究成果の報告おこなった。算定が困難であることから暫定的に算定の対象外となった販売過程について改めて挑戦した研究内容であり、質疑応答を通して関心の高さを感じた。カーボンフットプリント民間運用先の担当者との議論の場もあり、より良い制度設計のための提案の第1歩が出来たと感じている。以上より、現在までの研究は「おおむね順調に進展している」と自己評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
研究初年度では、食品スーパーより提供を受けた企業業務データ(品別販売金額・店舗別光熱使用データ)を用いて、店舗別・品目別に8過程別のCO2排出量の算出を行った。今年度は次の2点の研究を予定している。1.CO2削減方策の考察・シミュレーション:初年度に算出した店舗別・品目別ライフサイクルCO2排出量をもとに、CO2削減の具体策を考察・シミュレーションする。初年度の結果、販売される店舗の属性(立地・店舗規模)及び消費者の属性(年齢・車利用の有無・廃棄回収の協力等)によって、同じ商品でも1万円あたりのCO2量に差が生じることが明らかとなった。これにより過程別のCO2が明示され、どの過程での削減努力が、ライフサイクルCO2削減に効果的であるかの考察を行う。例えば店舗努力として空調調節・厨房での廃棄物回収の推進、消費者努力としてレジ袋辞退・廃棄物回収の協力・車以外での来店、等である。これらの選択肢を実際に行動した結果、どの程度のCO2削減が可能となるかシミュレーション分析を行い、ライフサイクル全体として環境負荷が軽減する方策の検討を行う。2.現行カーボンフットプリント制度に対する提言:算出したCO2は、消費者の買い方や小売段階の売り方を概念に含めた多様性を考慮したCFPである。制度改定により販売過程は暫定的に算定の対象外とされたが、算定対象に含める動きの模索が始まっている。算出したCO2は、販売過程をさらに細分化したCO2見える化指標であり、いわば販売過程のデフォルト値といえる。使用したデータは企業が追加的費用をかけること無しに得られる管理会計上把握している業務データであり、比較的容易にCO2算出が可能であることも明らかとなった。より良いCFP制度設計のために以上の点を主張し、社会全体における環境負荷を低減し持続可能な社会の構築をめざす方策を検討する研究に展開していく予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究費の使用計画(費目内訳)は以下の通りである。1.物品費230,000円:研究作業用のパソコン及びプリンターの関連消耗品、文房具類、書籍代として使用予定である。カーボンフットプリント制度は一部の国(イギリス、フランス、韓国など)で先行事例があり、また、ISO規格化作業が進行中であることから、世界の動向を把握する必要があり、文献サーベイを併行しておこなっていく予定である。特に、本研究で注目している販売過程の扱いについて、世界ではどのような取扱いをしているか整理する予定である。その際に書籍購入が必要となることが予想される。2.旅費70,000円:初年度と同様に、1年間の研究成果の報告のため、年度末に学会報告(日本LCA学会第8回研究発表会)を予定している。場所は未定であり、予想される交通費と学会参加費を計画にいれておく。また、カーボンフットプリントを実際に算定している企業や業界及び研究対象としているシンクタンクや大学等の研究者にヒアリングを行う予定であり、その際の交通費も予定しておく。3.その他40,000円:研究遂行に必要な書籍・資料・データ等の複写代、議論のための研究会議費用等が必要となることが予想される。
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