2012 Fiscal Year Research-status Report
非可食バイオマスから脂肪族・芳香族カルボン酸類の新規環境軽負荷合成技術の創出
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23710094
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
佐々木 満 熊本大学, 自然科学研究科, 准教授 (40363519)
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Keywords | 国際情報交換 |
Research Abstract |
本年度はキクラゲ、竹粉およびワカメ粉末(海洋バイオマス)を原料として、水熱加水分解、水熱マイクロ波加水分解処理および水熱電解処理試験を種々の温度、処理時間で実施し、原料中のbeta-グルカンやセルロース、フコイダンといった多糖類の低分子化条件の策定を試みた。また、回収したグルカン含有水溶液の生理活性(今回は抗酸化性)を測定し、その有効性を調査した。さらに竹粉の水熱糖化処理により得た加水分解物に対し水熱電解処理を施すことにより、有価なジカルボン酸を生産することを志向した基礎反応特性を調べた。 初期平均分子量が240 kDaである乾燥ワカメ粉末を140℃のマイクロ波水熱条件下で処理したところ、15~60分で平均分子量が20 kDa程度にまで低下し、さらに120分処理では約5 kDaにまで低分子化し得ることを見出した。一方、乾燥キクラゲ粉末に関しては、180℃、60~90分での水熱処理により、所望の平均分子量(5~15kDa)の低分子量beta-グルカンを高収率で得た。いずれの場合も、得られた生成物水溶液は抗酸化活性を有した。竹粉の水熱加水分解においては160-200℃での糖化実験の結果、セロビオースやグルコースを主成分とする加水分解生成物水溶液を得ることができた。また、グルコースを出発物質とした水熱電解実験を、140-160℃、0-5 A、0-180分の範囲で行った結果、電解質NaClおよびNaOHを用いて初期pH値を5.3-9.0とした場合、グルコースは120℃において最大68 %の選択率でフルクトースへと互変異性化し得ること、フルクトースは高温下(160-200℃かつ酸性条件下)で脱水反応を生じ5-HMFへ転化することがわかった。5-HMFからジカルボン酸への酸化反応については今年度実施することができなかったため、来年度に実施し高収率生成に向けた知見を得る予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は「非可食バイオマス」を、石油化学工業で誘導している化成品およびその中間体の製造ソースとして利用可能であることを立証するために企画した研究課題である。平成23年度は、主として木質バイオマスである竹粉を原料とし、また糖化手法も水熱電解法を中心とした基礎反応工学データの取得に注力していた。糖の電解酸化による有価物の変換挙動の把握と素反応の反応制御性に焦点を当て、実験を集中的に実施した。その結果、水熱電解法による竹粉の低分子化、糖の異性化、脱水および部分酸化それぞれの生起条件の傾向を知るまでは達することができたものの、効率的な糖化処理条件の策定には未達、糖から有用化成品までの高収率生成を実現する条件策定にまでは至っていない。これらの点で平成23年度は「やや遅れている」という自己評価とした。 平成24年度は従来の竹粉に加え、キクラゲやワカメ粉末を用いた。これらは、食用として使える部位ではなく、「規格外品の処理・有効利用」を想定して選んだ原料であり、東アジアや東南アジアだけでなく中国やニュージーランド、ロシアといった諸外国でも入手可能な残渣資源であることから、「非可食バイオマス」の展開が期待できる。またそれぞれ含有する多糖類やタンパク質はいずれも低分子化することにより食品や医薬品素材としての優れた機能を発現する。また、糖化手法としても、従来までの水熱加水分解や電解だけでなく、水熱パルスマイクロ波加水分解処理も含めることで、処理方法の適切な選定も可能となる。実際にこれらの試験を鋭意実施したことによって、それぞれの生理活性が発現する低分子量成分を得る操作条件を策定するに至っている。 以上のことから、本年度は当初目標糖化手法の確立に関しては達成度が高いものと認識している。他方、糖の有用化成品への効率的変換については平成25年度(最終年度)の検討により結論を見いだせるものと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は、①海洋バイオマスであるワカメ粉末に原料を絞り、低分子量フコイダンを高収率で得ることを第一の目標にする。また第二の目標として、糖からの高付加価値成分であるジカルボン酸の高収率生成に向けた継続的な基礎実験を実施する。その際、原料物質をこれまで以上に多様な物質を利用することにより、これまでの2年間では検証できなかった「水熱電解法の汎用的利用の可能性」についても実験的に検討することができると考えている。 また、研究のアウトプットとして、学術的な見地から反応挙動の定量的理解ができ、基礎反応プロセスフローが描けるだけでは不十分であると私自身は考えており、当該技術および知見を社会に貢献する形に展開したい。その意味で、熊本県内または九州圏内の木質バイオマスや海洋バイオマスの産業廃棄物の処理問題を抱えている自治体関係者との懇談、協議を重ね、「廃棄物減容化」と「新たな付加価値成分の生産」とを両方実現する小型プラントの設計・製作のための基本設計を完了する段階まで本研究期間の中で実施したいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度は特別な備品は購入する予定はなく、専ら実験に必要な試薬や反応器用部品等、分析に必要となる溶媒などを購入する計画である。また、研究成果の公表に係る 学会参加に係る旅費および参加登録費への支出に使用する計画である。
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