2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23710122
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
澤田 敏樹 東京工業大学, 理工学研究科, 助教 (20581078)
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Keywords | 生体関連高分子化学 / 生物有機化学 / ソフトマテリアル / バイオテクノロジー |
Research Abstract |
前年度に構築した、繊維状ウイルスの一種であるM13ファージと金ナノ粒子からなるハイドロゲルの機能性を評価した。M13ファージ末端にはタグペプチド(抗原ペプチド)を提示させ、金ナノ粒子上には抗体を固定化して用いた。 低濃度のファージ溶液と抗体固定化金ナノ粒子を混合し、ウイルスを増幅させる大腸菌を少量添加した。混合溶液をインキュベーションし、経時的に混合溶液に対して押込み破断特性評価を行った。その結果400分付近で急激に強度が上昇し、溶液(ゾル)がゲルへと転移することがわかった。溶液内のファージ濃度を経時的に測定した結果、ファージ濃度の上昇と共にゲル化していることが明らかとなった。つまり、構成要素であるファージが大腸菌により増幅されて濃度が上昇したことによりゲル化したものと考えられる。これらの結果は、構成要素の増幅により構造転移する新しいタイプのハイドロゲル構築が達成できたことを示している。 さらにファージおよび抗体固定化金ナノ粒子を十分な濃度で混合し、溶液からゲルへと自己組織化する過程を偏光顕微鏡により観察した。混合直後は真っ暗な像しか観察されず、等方的な溶液状態であったが、15分後には明るいドメインが複数観察され始めた。30分後には百マイクロメートルオーダーのドメインが観察された。サンプルを45 °回転させる度に像の明暗が反転したことから、ファージはゲル内で高度に配向しており、液晶構造を形成することがわかった。一般に繊維状ウイルスが液晶化する濃度と比較すると3分の1以下の濃度で液晶化しており、特異的な相互作用が効果的に働いたものと考えられる。金ナノ粒子がゲル内で規則的に配列することは前年度に見出していたが、本知見と併せて考えると、構成要素それぞれが極めて規則的に、集合状態が制御されているハイドロゲルであることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
ウイルスからなるハイドロゲルの特性として、増幅といった概念をマテリアルの世界に導入することができた。このことは、ウイルスをマテリアルの構成要素として利用でき、かつその特性をもマテリアルとして利用できることを示している。一方で、ウイルスが低濃度条件においても液晶化することを見出した。この結果は、2つの構成要素それぞれが高度に構造制御された新しいマテリアルであることを示しており、特異的かつ位置特異的な相互作用の利用が、複数成分からなるハイブリッドマテリアルの構造制御法として利用できる可能性を強く示している。
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Strategy for Future Research Activity |
現在はファージとナノ粒子はタンパク質を介して相互作用しており、ファージとナノ粒子とが直接相互作用できる分子設計を施し、系の単純化を目指す。ファージ末端に金に結合するペプチドを提示させることで、ファージが他の分子を介さずにナノ粒子と直接相互作用できるシステムを構築する。これにより、より簡便なファージハイドロゲルの構築が期待される。 さらに、ファージ表面に機能性基を導入することにより、機能性ハイドロゲル構築も目指す。ファージ表面には合成化学的あるいは遺伝子工学的に任意の官能基や分子を導入できるため、望みの機能を自在に付与できるウイルスハイドロゲル構築が期待される。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
繊維状ウイルスからなるハイドロゲル構築において、研究計画と比較してよりシンプルな構成・手法から構築することができた。そのため、消耗品として購入を予定していた化学および生化学試薬の使用量が当初の予定と比較して大幅に少ない量となった。それにより生じた未使用額をより発展的な研究として利用する。具体的には、金に結合するペプチドを提示したファージを新たに遺伝子工学的に調製する。ゲノムDNAに金に結合するペプチドをコードする遺伝子を調製して融合し、新たなファージを調製する。種々のサイズの金ナノ粒子と調製したファージを混合し、ゲル化挙動を明らかにする。それら構築に必要なプラスミドDNAや生化学試薬を、未使用額もこれら次年度の計画のために使用する。
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Research Products
(13 results)