2011 Fiscal Year Research-status Report
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23710174
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
武田 朗子 慶應義塾大学, 理工学部, 准教授 (80361799)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | トラッキング・ポートフォリオ / ポートフォリオ選択 / 回帰分析 / 正則化 / L0ノルム |
Research Abstract |
本研究では,数理最適化・金融工学・統計的学習の三つの分野の融合領域を開拓することを目的としている.本年度は,具体的な研究対象としてポートフォリオ最適化問題(金融資産への投資配分決定問題)を取りあげ,ベンチマーク(日経平均株価やTOPIX,S&P500などに代表される平均株価指数)の収益率からの乖離(トラッキング・エラー)を最小化するようなトラッキング・ポートフォリオモデルを新たに提案した."ベンチマークとポートフォリオのパフォーマンスの乖離"をL2ノルムを用いて表現すれば,「ポートフォリオモデル固有の制約のついた回帰モデル」としてトラッキング・ポートフォリオモデルを見なすことができる.統計的学習分野では,正則化項(ノルムを用いて表わされる項)を回帰モデルに加えることにより,モデルの汎化能力(新たなデータに対する予測能力)が向上することが知られている.その知見を取り入れて,既存のトラッキング・ポートフォリオモデルに正則化項を加え,汎化能力の高いモデルを構築した.さらに,日経225等の金融データを用いた数値実験を通して,予測能力の向上を確認した.また,提案モデルの正則化項のノルムをL1,L2,L0,L0とL2を組み合わせたものに変えることで,予測精度や解の疎性がどのように変化するか,数値実験を通して調べた.疎なポートフォリオ(最適解のベクトル要素にゼロが多く含まれている状態)は保有資産銘柄数が少ないことを意味する.投資家にとって,取引手数料は無視できないコストであり,疎なポートフォリオは取引手数料を小さく押さえるという意味では好ましいといえる.一方,あまりに疎なポートフォリオでは事後パフォーマンスが低下してしまう.そこで,L0とL2を組み合わせたノルムを正則化項として用いることにより,疎でありながら事後パフォーマンスのよりポートフォリオが達成できることを数値実験により確かめた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書の平成23年度の研究目的として挙げた,「ノルム制約付きポートフォリオモデルの理論的・実証的検証」を達成することができた.具体的な成果として,基本的なモデルの構築,計算機への実装と実験を終え,本研究成果を英語論文としてまとめることができた.現在,査読付き学術雑誌へ投稿中である.また,本研究成果を中心に,統計的学習と金融工学の接点について,解説記事としてまとめた.この記事はOR学会誌に投稿し,掲載予定である.さらに,次年度の研究目標である「ノルム制約付きVaR最小化ポートフォリオモデルの提案」について検討を始めることができた.現在,VaR最小化ポートフォリオモデルを解くための近似解法を考案している最中である.よって,本研究課題はおおむね順調に進展していると思われる.
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Strategy for Future Research Activity |
ノルム制約付きVaR最小化が汎化誤差の最もタイトな上界値を与えることを既に示した(武田,2009)ものの,ノルム制約付きVaR最小化が「ノルム制約の付いた整数計画問題」という求解困難な問題に帰着されるため,ノルム制約付きVaR最小化モデルを解くことを,今まで試みていなかった.しかしながら,所与データ(各資産利益率)が誤差や急激な変動を含む可能性があり,リスク尺度VaRはそのような外れ値を除外できるというよい特徴を考慮すると,本モデルは現実の金融データに対してあてはまりがいいのではないかと期待できる.そこで,次年度は「ノルム制約の付いた整数計画問題」の近似解法を考案し,数値実験を通してモデルの善し悪しを評価したい.モデルの善し悪しを評価するためには,「近似解法がモデルの最適解に近い近似解を出すこと」が必要になる.そこで今後は,ノルム制約の付いた整数計画問題に対する近似精度の高い解法の構築,を第一目標にして研究を進めていきたい.解法の構築を終えた後,提案モデルの善し悪しの評価を行なう.具体的には,ロバスト統計で使われる頑健性を測る指標(破局点)が非常に大きいか否か,つまりデータに外れ値が多くてもそれに引きずられない意思決定ができるか否か,について調べたい.思い通りの結果が出なければ,モデルの微調整と解法の微調整のフェーズを繰り返し,外れ値に頑健なモデルの構築を目指したい.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度の研究では,既に所有していた計算機による数値実験で,満足のいく結果が得られた.そのため,当初予定していた,計算機周辺機器の購入用に考えていた予算を使わずに研究を終えることができたため,その分の予算(193,829円)を次年度に繰越となっている.本年度の研究が順調に進んだため,次年度は(1)当初より予定している「ノルム制約付きVaR最小化」の研究遂行のための打ち合わせ,に加えて,(2)本年度の研究成果の発表,本年度の研究を発展させるための研究打ち合わせ,も検討しており,当初予定していたよりも国内・海外出張が必要になると思われる.そこで,繰越分については,次年度の国内旅費・海外旅費に充てたいと考えている.本年度の研究成果はNiranjan教授(Southampton大学)との共同研究に基づいており,次年度も共同研究を続ける予定である.また,ノルム制約付きVaR最小化モデルの統計的な性質を示すためには,Schoelkopf教授(マックスプランク研究所)の協力も必要になる.そこで,海外共同研究者との研究打合わせのため,そして国内・国際会議にて成果報告を行なうため,繰越金分を国内旅費・海外旅費に充てたい.また,次年度はプログラム開発と数値実験のために,実験用計算機(PC)の購入を検討している.さらに提案モデルを解くための解法の構築などが順調に進めば,数値実験の際には研究支援者(修士学生)の力を借りて,協力して数値実験に取り組みたい.そのため,次年度は研究支援者の雇用費として人件費・謝金を計上している.
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Research Products
(12 results)