2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23710174
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
武田 朗子 慶應義塾大学, 理工学部, 准教授 (80361799)
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Keywords | ポートフォリオ選択 / 回帰分析 / 正則化項 / 金融リスク尺度 / 外れ値 |
Research Abstract |
本研究では、数理最適化・金融工学・統計的学習の三つの分野の複合領域を開拓することを目的としている。本年度は、主に下記の研究を行った。 ●ポートフォリオ最適化問題(金融資産への投資配分決定問題)に対し、ベンチマーク(例えば、日経平均株価)の収益率からの乖離を最小化するモデルが知られている。これは、金融工学分野において、トラッキング・ポートフォリオモデルと呼ばれている。このモデルを回帰モデルと見なして、統計的学習でよく知られた予測性能を高めるためのテクニック(正則化項)をモデルに追加し、正則化項がモデルの予測性能にどのような影響を与えるかについて調べた。正則化項として、L0やL1ノルムを用いると、従来のL2ノルムを用いた正則化項に比べて疎な解が得られるため、特徴選択ができるという利点がある。一方で、L0ノルムを含むモデルは離散最適化問題となり、厳密に解くのが難しい。そこで、本年度はL0ノルムを含むモデルをいかに解くかに焦点を当てて、研究を行った。 ●統計的学習分野では、判別分析のために多くの判別モデルが提案されている。中でも、サポートベクターマシン(SVM)がよく知られている。多くの判別モデルは、正則化項と損失関数から成る目的関数の最小化問題として記述される。これまでの申請者による研究において、損失関数として金融リスク尺度であるconditional value-at-risk (CVaR) を用いると、SVMと等価なモデルになることを示した。本年度は、他のリスク尺度(具体的には、value-at-risk(VaR))を用いるとどのような判別モデルに対応するのかを理論的に示し、数値実験においてその提案モデルの有用性を示した。具体的には、外れ値の含まれるデータセットに対して、外れ値の影響をあまり受けないモデルであることが確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書の平成24年度の研究目的として挙げた、「ノルム制約付きVaR最小化モデルの解法の考案」を達成することができた。申請者らのこれまでの一連の研究により、ノルム制約付きVaR最小化が汎化誤差の最もタイトな上界値を与えることを理論的に示したものの、ノルム制約付きVaR最小化が「ノルム制約の付いた整数計画問題」という求解困難な問題に帰着されるため、ノルム制約付きVaR最小化モデルを解くことを試みていなかった。そこで、ノルム制約付きVaR最小化問題を厳密に解こうとすると多くの計算時間が必要となり現実的なサイズのポートフォリオを扱うことは困難となるため、厳密解法ではなく近似解法を考案した。 具体的には、Larsen等[2002]によって提案されたVaR最小化解法に対してノルム制約も扱えるように修正を加え、ノルム制約付きVaR最小化の近似解法を考案した。加えて,計算機への実装、実データを用いた数値実験を行った段階である。関連手法との比較実験を通して、データに外れ値が含まれていても、提案モデルがあまり外れ値の影響を受けずに済むことを確認した。すでにオペレーションズ・リサーチ(OR)学会の2013年春季研究発表会にて本研究成果を報告済みであり、現在、査読付き国際雑誌に投稿すべく論文としてまとめている段階である。 よって、本研究課題はおおむね順調に進展していると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究成果として、VaRリスク尺度を用いた判別モデルを提案した。データに外れ値が含まれていても、提案モデルがあまり外れ値の影響を受けずに済むことを確認した段階である。今後は、この提案モデルを深く掘り下げ、既存研究との関係性を調べるとともに、より効率的な解法の考案、また提案モデルを含む、より一般的な判別モデルへと拡げていきたい。そしてモデルを拡張することにより、そこからより判別性能の高い、新たな判別モデルの発見へと繋げていきたい。 具体的には、下記の事柄を考慮していくつもりである。 ●このVaR最小化判別モデルは、機械学習分野で“ロバストSVM”と呼ばれるいくつかのモデルと,ある場合に(互いのパラメータをうまく設定すれば)等価になるのではないか、という予想が得られている。これを理論的に検証し、また数値実験を通して確認したい。 ●ノルム制約付きVaR最小化問題を厳密に解こうとすると多くの計算時間が必要となり現実的なサイズのデータセットを扱うことは困難となるため、近似解法を考案した。それでもなお,現実的なサイズのデータセットを扱うまでに至っていない。そこで、オンラインアルゴリズムなどのテクニックを取り入れ、一度にすべてのデータセットを扱うのではなく、保持するデータを一定にとどめ、すこしずつ保持するデータを取り替えてアルゴリズムを構築したい。このテクニックを取り入れることにより、提案手法はより現実的な解法になり得ると考えている。 ●これまでの研究により、損失関数として金融リスク尺度であるCVaR を用いると、SVMと等価なモデルになることを示した。また、VaRを用いたVaR最小化判別モデルは、ロバストSVMと等価になるのではないか、という予想が得られている。そこで、他の金融リスク尺度を用いるとどのような判別モデルが得られるのか、についても検討してみたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度の研究では、既に所有していた計算機による数値実験で満足のいく結果が得られた。そのため、当初予定していた、計算機周辺機器の購入用に考えていた予算を使わずに研究を終えることができた。一方で、得られた研究成果の報告の機会が予定よりも多く与えられたため、研究費を旅費に充てることができた。このように、予算の使用計画に変更が生じたため、残金(30,853円)が次年度に繰り越しとなった。 次年度は、下記の項目への出費を予定している。 (i)25年度も研究に必要な数値計算ソフトウエア等の購入を検討している。 (ii)提案モデルを解くための効率的な解法の研究が順調に進めば、数値実験の際には研究支援者(修士学生)の力を借りて、協力して数値実験に取り組みたいと考えている。そのため、次年度は研究支援者の雇用費として人件費・謝金を計上している。(iii)現在、研究成果を英語論文としてまとめている段階であり、本年度中に国際学術雑誌に投稿する予定である。英文校正サービスを使うための研究費の使用を検討している。 (iv)本研究成果の発表のため、さらに、研究をさらに発展させるために他研究者とのディスカッションを行うため、国内外への出張を予定している。(v)プログラム開発と数値実験のために必要であれば、実験用計算機(PC)の購入も検討している。
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Research Products
(17 results)