2013 Fiscal Year Research-status Report
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23710174
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
武田 朗子 東京大学, 情報理工学(系)研究科, 准教授 (80361799)
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Keywords | ロバスト最適化 / リスク尺度 / 統計的学習 / サポートベクターマシン / ポートフォリオモデル |
Research Abstract |
本研究では,数理最適化・金融工学・統計的学習の三つの分野の複合領域を開拓することを目的としている.本年度は,主に下記の研究を行った. (1)統計的学習分野では,判別分析のために多くの判別モデルが提案されている.中でも,サポートベクターマシン(SVM)は高い判別能力を持つことが知られている.これまでの申請者による研究において,目的関数として金融リスク尺度であるconditional value-at-risk (CVaR) を用いると、SVMと等価なモデルになることが示された.本年度は,CVaRを含む広いクラスのリスク尺度であるコヒーレントリスクを用いるとどのような判別モデルに対応するのかを理論的に示し,数値実験においてその提案モデルの有用性を示した. (2)また,数理最適化分野の代表的なロバスト最適化モデルを用いて,統計的学習分野で提案されている様々な判別モデルを統一的な定式化で表現できることを示した.そして,既存の判別手法の違いは,ロバスト最適化モデルで用いられる入力(不確実性集合)の定義に表れることを明らかにし,今まで異なる仮定や想定のもとで提案されてきた判別手法の本質的な違いを明確に示した. (3)さらに,コヒーレントリスクの最小化に基づく判別モデルに対してロバスト最適化問題として記述し,不確実性集合の表現方法を明確にした.この成果により,コヒーレントリスク最小化問題を幾何的に解釈できるようになったため,現実問題へ適用しやすくなることが期待される. (4)ロバスト最適化モデルはmin-max問題で記述されるため,この定式化のまま最適解を求めることはあまり試みられていなかった.しかし,様々なリスク尺度を試して判別モデルを構築するためには,min-max問題のまま最適解を求める必要がある.そこで,first-order methodと呼ばれる最適化手法を用いて,アルゴリズムを考案した.現在,その実用性について数値実験を通して検証している段階である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は,金融工学分野でよく知られたリスク尺度であるコヒーレントリスクに着目し,このリスク尺度を用いた判別モデルを導出し,数値実験においてその提案モデルの有用性を示した.金融のリスク尺度を機械学習の世界に持ち込み,既存判別モデルとリスク尺度最小化モデルを関連づけたことにより,個々の判別モデルの“意味合い”を直感的に理解する手助けとなると考えている. 交付申請書を作成した時点では,このリスク尺度について知識を持っておらず,この方向性での研究については想定していなかった.昨年度の研究を通して,リスク尺度についての知識を深め,その尺度を判別モデルに用いることを思いつくに至った.一方で,本年度,他の研究チームが同様のアイディアを持って研究を進めていることを知り,本研究課題の申請時に予定していた研究計画を変更して,リスク尺度最小化に基づく判別モデルについての研究を優先して進めることにした. その結果,平成25年度の研究目的として挙げた「金融データの時系列性を考慮した改良ポートフォリオモデルの考案」の研究までには到らなかったものの,上述の研究トピックスにより,本年度は予想以上の成果を得ることができた.また,リスク尺度最小化に基づく判別モデルについて引き続き研究を続けており,今後も,アルゴリズムの開発,幾何的な解釈,バイオインフォマティクスの問題への適用に向けて研究を続けるつもりである.
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,大きく2つの研究トピックスを主に扱う予定である.「現在の達成度」に記したように,リスク尺度最小化に基づく判別モデルについて引き続き研究を続けるつもりである.本年度は,基本モデルの評価はすでに終えており,来年度は,アルゴリズムの開発,幾何的な解釈,バイオインフォマティクスの問題への適用に向けて研究を進めていきたい. また,当初の研究目的の一つである,「金融データの時系列性を考慮した改良ポートフォリオモデルの考案」についても行いたい.金融データには時系列性があるにもかかわらず,既存モデルではその時系列性がモデル構築の際に十分に考慮されていない.改良方法としては,モデル化の際に観測データに与える重みを,時間に関する単調減少関数で与えることが考えられる.さらに,T 期間に渡って資産運用する場合には,資産価値の変動に応じて動的にポートフォリオの組換えを行う必要がある.そこで,信号処理の専門家であるNiranjan教授(Southampton大学)の協力を得て,本研究に取り組む予定である.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度の研究では,既に所有していた計算機による数値実験で,満足のいく結果が得られた.そのため,当初予定していた,計算機周辺機器の購入用の予算を使わずに研究を終えることができたため,その分の予算(930,853円)が次年度に繰越されることになった. 本年度の研究が順調に進んだため,次年度は(1)当初より予定している「金融データの時系列性を考慮した改良ポートフォリオモデルの考案」の研究遂行のための打ち合わせに加えて,(2)本年度の研究成果(コヒーレントリスク最小化判別モデル)の発表,本年度の研究を発展させるための研究打ち合わせも検討している. (1)の研究はNiranjan教授(Southampton大学)と協力して取り組む予定である.そこで,研究打合わせや国内・国際会議にて成果報告を行なうため,当初予定していたよりも旅費が必要になると思われる.本年度の繰越金分を来年度の旅費に充てるつもりである. また,来年度,提案モデルを解くための解法の構築などが順調に進めば,数値実験の際に研究支援者(修士・博士学生)の力を借りて,協力して数値実験に取り組みたい.そのため,次年度は研究支援者の雇用費として人件費・謝金を予定している.
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Research Products
(7 results)