2011 Fiscal Year Research-status Report
宇宙線生成核種の分析による山地源流域の土砂生産ポテンシャルの定量化
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23710208
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
松四 雄騎 京都大学, 防災研究所, 准教授 (90596438)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 宇宙線生成核種 / 加速器質量分析 / 土砂生産 / 侵食速度 / 流域 / 防災 |
Research Abstract |
山地流域からの長期的土砂生産速度を定量化するため,今年度は阿武隈山地,北アルプス,山形朝日山系の花崗岩および花崗閃緑岩からなる地域を対象に,渓流堆砂に含まれる宇宙線生成核種を分析した.まず地形図や地理情報システム上のデジタル地形データ上で,地質・地形・テクトニクスの観点から,調査対象とする流域を選定したのち,実際に野外において渓流堆砂試料の採取を行った.試料の化学処理は主として東京大学のタンデム加速器研究施設に併設された実験室で行い,同施設での加速器質量分析によって,石英中に生成した極微量の宇宙線生成核種10Beおよび26Alを定量した.これらの核種の濃度および試料を採取した流域における核種生成率から,各流域における長期土砂生産速度を算出した.現在までに得られた土砂生産速度は1x10^2-7x10^3 mm/kyr の地表低下に相当する値であり,山地のテクトニクスや地形,基盤の風化状況などに依存して多様な値を示すことが明らかになった.こうした宇宙線生成核種による千年スケールでの流域からの長期的土砂生産速度のデータは,わが国では初めて得られたものであり,砂防・治山事業の効率的実施,あるいは流域圏における土砂災害ポテンシャルの定量的評価のための基礎データとして活用できるものと期待される.以上の成果は,2011年度に行われた日本地球惑星科学連合および日本森林学会のシンポジウム「斜面・小流域での水・土砂移動機構に基づく大流域スケールの水・土砂動態予測に向けて」において発表した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までに,小起伏(阿武隈山地),中起伏(山形朝日山系),大起伏(北アルプス)の山地をそれぞれ対象として,初期的データを得ることができた.データ取得のための方法論についてはほぼ完成したといってよい.来年度以降は,これらのデータの一般性を追求する必要がある.すなわち,日本列島においてさらに多くの地域において,データを蓄積し,地形と隆起量,基盤岩質などの地域特性と,流域からの土砂生産速度との対応関係についての一般的傾向の把握を試みる.また,土砂災害対策や流域の土砂管理などの応用にまで道筋をつけるためには,土砂生産の速度だけでなくそのプロセス,すなわちどのようにして流域内の斜面から土砂が生産・運搬され,宇宙線生成核種によってここで定量されたような速度で流域から排出されているのかということに対しての洞察を得る必要がある.これについては,次項「今後の研究の推進方策」に記述した方針で研究を推し進めたい.
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Strategy for Future Research Activity |
流域からの土砂生産速度については,さらに多くの地域を対象とし,調査対象流域の地形および地質に多様性を持たせて,一般性の高いデータの蓄積を図る.また,貯水ダムにおける堆砂量など,短期的な(数十年スケールでの)土砂生産のデータを収集し,宇宙線生成核種による長期(数百年-数千年スケールの)土砂生産速度との比較を行う.流域の斜面では厚さ数十センチメートルから数メートル程度の厚みの土層が基盤岩を覆っている.これは基盤岩の風化によって生成したものであり,流域からの土砂生産の源となるものである.流域からの土砂の生産速度を決定するメカニズムを考察するため,流域内の斜面における土層の形成速度についても宇宙線生成核種を用いた定量化を行う.また,土層の中で生起している水文地形プロセスについても観測機器の埋設等により実証を行う.流域内での地形プロセスを把握するため,種々のデジタル空間情報データを地理情報システム上で解析し,空間的広がりを持って土砂動態の把握を行う.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度は,東日本大震災の影響で,宇宙線生成核種の分析システムである東京大学のタンデム加速器が一時稼働を停止していた影響があり,予定していた分析の一部およびそれにかかる費用を平成24年度での支出とする.平成24年度は,宇宙線生成核種の分析のための実験消耗品購入費用や分析費用に加え,種々の野外水文地形観測機器および空間情報データの購入費,野外調査のための旅費,分析のための実験施設滞在費,論文出版のための英文校閲費等に研究費を使用する計画である.
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Research Products
(2 results)