2011 Fiscal Year Research-status Report
ESCO1及びESCO2によるコヒーシンアセチル化の分子機構の解明
Project/Area Number |
23710213
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
坂東 優篤 東京大学, 分子細胞生物学研究所, 助教 (90360627)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
Keywords | コヒーシン / ゲノム構造 / アセチル化 / ChIP-seq |
Research Abstract |
染色体構造の構築に寄与するコヒーシンは、ESCO1とESCO2二つのアセチル化酵素によりコヒーシン構成因子であるSMC3が修飾される。染色体上のどのような領域に存在するコヒーシンがアセチル化されるかを明らかにするため、抗アセチル化SMC3抗体を用いたChIP-seq解析を行った。アセチル化コヒーシンの局在は染色体全体に渡り見られたが、特に遺伝子下流に存在するコヒーシンがアセチル化される傾向にあった。このことは、ヒト細胞でのコヒーシンのアセチル化された領域は、酵母のように転写活性により決定されている可能性も考えられる。また、ESCO1若しくはESCO2をノックダウン(KD)した細胞においてアセチル化コヒーシンの領域はどのように変化するか検討したところ、ESCO1KDでは、全体的にアセチル化されている領域の数の減少がみられた。一方、ESCO2KDでは、あまりアセチル化領域に対して影響が観察されなかった。このことは、現時点ではゲノム配列が決定されているユニークな配列のみを対象に解析しており、セントロメアなどの繰り返し配列の領域のアセチル化が検出できていないためであると考えられる。この結果とESCO2がセントロメア周辺のコヒージョン形成に寄与する知見を考え合わせると、ESCO1とESCO2が標的とするコヒーシンの領域は異なるということが明らかとなった。両因子は存在時期が異なり、ESCO2は、S期のみに存在し、ESCO1は細胞周期を通じて染色体上に存在する。今回、分裂期においてESCO1は、CDKやPLK1にリン酸化され、その配列を同定した。さらに、ESCO1によるコヒーシンのアセチル化にはコヒーシン結合因子の一つPDS5が必要であることを明らかにした。以上の結果から、ESCO1はG1期などにPDS5を介してコヒーシンをアセチル化し、転写の制御を行っている可能性が考えられた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
アセチル化されるコヒーシンの染色体上の領域をChIP-seq解析により同定し、さらにESCO1やESCO2それぞれの因子によりアセチル化される領域を明らかにした。今回明らかにしたアセチル化コヒーシンの存在する領域が遺伝子3’末端周辺に局在することや、ESCO1はG1期に存在、機能すること、またESCO1KDにより遺伝子周辺を含むアセチル化が減少することから、アセチル化と転写の連携ついて示唆された。現在、このことを検証するため、ヒト繊維芽細胞を使った外界からのシグナルによる遺伝子発現やインシュレーター遺伝子の転写を検出する系を立ち上げ、検討を開始している。また、ESCO1やESCO2、またそれぞれの断片を発現するプラスミドを構築し、クロマチン結合に必要な領域、分裂期にリン酸化を受ける配列、細胞内でSMC3のアセチル化に必要な領域、 PDS5と作用する領域を決定した。さらに、これらの断片や変異タンパク質の精製をバキュロウイルスによる昆虫細胞を用いた組換えタンパク質発現系を用いて行った。現在、精製した組換えタンパク質を用いて試験管内でのアセチル化アッセイの構築を行っている。
|
Strategy for Future Research Activity |
ChIP-seq法やChIP-qPCRを用いてアセチル化コヒーシンが転写により実際、影響を受けるかについて転写阻害剤やRNAiの手法を用いて検証する。またESCO1やESCO2のアセチル化領域の特異性について、ChIP-qPCRを用いて詳細に検討する。ESCO1及びESCO2の転写との関係については、ノックダウン細胞を用い、外来刺激による遺伝子発現解析やインシュレーター遺伝子の転写解析、さらに、RNAポリメラーゼIIなどの転写装置の動態の解析を行い、明らかにする。ESCO1やESCO2がどのような因子と相互作用し、どのように染色体に結合するするのかについて、まず、作製したESCO1やESCO2(全長もしくは断片)の発現プラスミドを用いて、それらを安定的に発現する培養細胞を樹立する。その後、樹立した細胞を用いて、ChIP-seq解析によりESCO1及びESCO2の結合領域の特定する。さらに、発現させたタンパク質を免疫沈降によりESCO1、ESCO2複合体を精製し、電気泳動による分画後、質量分析やウェスタンブロット法を用いて同定する。これらの実験結果から研究の総括をおこない、ESCO1及びESCO2の機能の違い、制御機構を明らかにする。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究費は、主に細胞培養関連、ChIP関連、ゲノム解析や転写解析関連、生化学関連に使用計画である。細胞培養関係では、培地関連、血清、培養関連消耗品に対して、ChIP実験では、抗体、ビーズ、DNA精製キット関連、シーケンスや定量PCR解析関係として、酵素、消耗品、プライマー作製に使用する予定である。また、転写解析に関わる酵素、プライマー、消耗品に対しても使用する。その他、また、相互作用因子の同定として、免疫沈降に必要な試薬(抗体、ビーズ等)、電気泳動及びウェスタンブロットに必要な試薬、プラスチック消耗品やバッファーなどの組成物質などが必要となる。
|