2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23710239
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
金子 真也 東京工業大学, 生命理工学研究科, 助教 (10399694)
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Keywords | 応用微生物 / 核酸 / ゲノム / バイオテクノロジー / 形質転換 |
Research Abstract |
当該年度(平成24年度)は、「水平伝播を利用したクローニングシステム」の汎用性をさらに拡大させ、一般の大腸菌DNAライブラリーを供与菌として使用できるシステムの構築を行った。これまではλ溶源性の大腸菌株であったため、市販の大腸菌ライブラリーを直接使用できなかった。今年度はλgt10を用いたビルレントファージ(virulent phage)による溶菌システムの構築を試みた。感染させるファージの量と大腸菌の培養条件を調整することで、効率よく供与菌を溶菌させる条件を検討した。結果としてMOI(ファージ/大腸菌)が2~4で感染させると約2時間で溶菌が生じ、プラスミドDNAを効率よく溶液中に放出することを確認した。これにより培養温度を一定(37℃)として供与菌(大腸菌)から受容菌(枯草菌)へ簡便にDNAを水平伝播させることが可能となった。様々な大腸菌株で枯草菌への水平伝播実験を行った結果、ヌクレアーゼ(endA) 欠損株を用いることで、溶液中に放出されたプラスミドDNAが30時間後でも安定して枯草菌へ移行できることを見出した。通常使用されている大腸菌株はendA欠損株であることが多く、一般の大腸菌DNAライブラリーにおいて非常に安定的に運用できるものと期待される。 以上の汎用性システムを確立した上で、BAC(Bacterial Artificial Chromosome)ライブラーを保持する市販の大腸菌(DH10B)を用いた水平伝播クローニングを実施した。BACクローンとして以前の研究で使用したマウスゲノム110kbを有する環状DNAを使用した。受容菌は制限修飾酵素が欠損し、マーカーのないDNAを組み込むためのポジティブセレクションを可能にする枯草菌株を使用した。結果として枯草菌への水平伝播は生じるものの、バックグラウンドが高く、さらに選択法を工夫する必要があった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度は「水平伝播を利用したクローニングシステム」をさらに一般的に使用できるようにするため、ビルレントファージ(virulent phage);λgt10を用いた供与菌の溶菌システムの構築を行った。結果としてファージを感染させるタイミングと量が明らかとなり、市販の大腸菌ライブラリーにも対応したクローニングシステムの構築に成功した。ビルレントファージを用いる方法では、供与菌の培養温度を変えることなく溶菌を誘導できるので、より簡便に操作することが可能である。また様々な大腸菌株を用いた水平伝播実験を実施したところ、ヌクレアーゼ(endA) 欠損株を供与菌として用いた場合、長時間(30時間)でも非常に安定に受容菌にプラスミドDNAを移行できることが判明した。この結果は市販の大腸菌ライブラリーを使用する時の注意点として重要である。もっとも通常遺伝子工学で使用される大腸菌株はヌクレアーゼ(endA) 欠損株であることが多いので、このシステムは十分汎用性があると考えられる。 ビルレントファージを用いた水平伝播クローニングシステムを大腸菌BACクローンに適用した。用いたBACは以前の研究で使用したマウスゲノム110kbを有する巨大環状DNAである。一方受容菌は昨年使用した制限修飾酵素を欠損した枯草菌株由来で、さらにBACのような枯草菌でのマーカーを持たないDNAを選択(ポジティブセレクション)できるように構築した株を使用した。結果として、水平伝播したコロニー(枯草菌)を取得できることは示せたものの、バックグラウンドが高いため今後選択法をさらに工夫する必要があると思われた。以上、今年度は当初予定していた通りのペースで本計画が進行しており、お旨順調に進展していると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
当該年度(平成24年度)は当初の計画通りに研究が進展し、研究費も効率的に運用することができた。繰越金の一部は会計上の都合で3月分の人件費の支払が4月に生じることによる。残りの当該年度で生じた繰越金は以下に示す次年度の最終的な実験計画で使用するものとする。 これまでの研究で「水平伝播を利用したクローニングシステム」は市販の大腸菌DNAライブラリーでも使用可能となり、また移行させるDNAも配列を選ばず、サイズも100kbまでなら十分使用できることが判明し、当初の計画通り汎用性拡大を実現することができた。最終年度では以下に示すようにクローニング効率を上げるための条件検討を試みるとともに、本クローニングシステムの特長を生かした複数の連続的なクローニング技術を試みる。 クローニング効率を上げるための工夫として、まず供与菌(大腸菌)がヌクレアーゼ(endA)を所有する株の場合、DNaseI抗体を使用することで、より安定なクローニングを実現できるか検討する。一方受容菌(枯草菌)については選択効率を上げるため、ポジティブセレクション法においてcIリプレッサー遺伝子を昨年までの1つから2つに増やした株(2cI法; Kaneko S. et al. J. Biotech 139: 211-213.2009)を用いることにより、バックグラウンドを低減できないか検討する。その他バックグラウンドを低減できる有効な手法がないか検討する。 複数の連続的なクローニング技術としては、当初の計画通り、異なるプラスミドを持つ供与菌(大腸菌)を用いて、繰り返し受容菌への水平伝播を行った場合と、複数の供与菌を同時に混合した場合を比較し、受容菌へ複数の遺伝子領域 (DNA断片) を効率良くクローニングする技術を検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究を遂行するにあたり、供与菌、受容菌の培養に必要な培養試薬類、培養資材類、また水平伝播に用いるプラスミドDNAの構築、改良と受容菌へDNAが水平伝播されたことを確認するため、さらにセレクション効率を改良するためなどに遺伝子工学用試薬類、遺伝子工学資材類、プライマー合成費などの消耗品費が必要と予想される。 この他、単純な試薬の調整、培地の操作、データの取りまとめを補佐する研究補佐(技術員1~2名)の人件費、及び情報収集、成果報告(学会発表、論文発表など)のための旅費、謝金(論文校閲料を含む)などが必要と予想される。 当該年度(平成24年度)もほぼ予定通りの研究費で効率よく研究が遂行しており、次年度(最終年度)も当初の計画通りの予算で必要充分であると見込まれる。
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