2012 Fiscal Year Research-status Report
過酸化水素・分子状水素のWntシグナル伝達経路に対する作用分子機構研究
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23710253
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
大河原 美静 名古屋大学, 高等研究院(医), 特任講師 (80589606)
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Keywords | H2ガス / H2O2 / Wntシグナル伝達経路 |
Research Abstract |
本研究は23年度に引き続きWntのシグナル伝達経路におけるH2O2とH2の分子作用機構、特にH2の標的の因子を調べる事を目標にし、Wnt/beta-cateninシグナル伝達経路の各構成因子のたんぱく質の状態に注目して検討した。細胞はこのシグナル伝達経路の補転写因子であるbeta-cateninを比較的高発現し、昨年度にbeta-cateninの核内移行の変化を確認している、マウス由来の線維芽細胞株細胞L cellsを用いて行った。 まず、この細胞にH2ガスに暴露することにより、beta-cateninのたんぱく質量を確認した。その結果、H2ガス暴露によりbeta-cateninたんぱく質量が減少することがわかった。また、この抑制効果はH2ガス処理後6時間で確認できる事から、H2ガスの効果は比較的早く、直接的である事が予想された。 一方、H2ガスの効果がどの因子を介してWnt/ beta-cateninシグナル伝達経路に影響を与えているかを調べるためにこのシグナル伝達経路を様々な点で活性化して、H2ガスの効果を調べた。その結果、H2ガスはWntリガンドで活性化した場合にはその効果を最大量に抑え、しかしGSK3の阻害剤であるLiClで活性化した場合でもその効果は一部分抑えられることがわかった。この事から、先のbeta-cateninの結果と合わせると、H2ガスはGSK3の下流で、その直接の標的であるbeta-cateninの上流で機能していることが示唆された。 以上の結果により、H2O2のみならずH2もWntシグナル伝達経路を直接制御することが推定された。H2の分子生物学的な機能は未だわかっておらず、このことは今後のH2の機能を特定する上で有用な結果であると考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の目標であった「siRNAを用いて特異的にひとつの蛋白質の発現を抑制し、各シグナル伝達経路におけるH2O2とH2ガスの作用に必須の酵素(群)を明らかにする。」については、siRNAを用いた実験が困難であることがわかった。これは、構成因子の多くが細胞の生存に必須であり、また各因子のファミリー因子群が相補的に機能しているためだと考えられる。また、昨年度行う予定であったシンポジウム等での発表も、行えなかった。現在は濃度と時間の設定が行える抑制的な薬剤を用いて検討している。よって、採取目標に対する相対的な達成度合いは「おおむね順調に進展している」と考えている。最終目的に達するため今年度は延長申請書を提出した。
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Strategy for Future Research Activity |
提出された研究計画に基づき、最終的に「Wntシグナル伝達経路に対するH2O2とH2の生体での生理的意義を明らかにする」ことをめざし、抑制的な薬剤などを用いた機能阻害実験を続けて進めていく。また、様々な細胞種を用い、たんぱく質のリン酸化状態やその活性状態を検討していきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
物品費は抑制的な薬剤の購入、新規の実験方法の準備費に充てていく。また、使用額に計上した旅費を用い、この結果を広く学会などで報告していく方針である。
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