2011 Fiscal Year Research-status Report
多重共鳴NMR法を用いた生体内化学反応プロセスの動的挙動解析
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23710268
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
山田 久嗣 京都大学, 学際融合教育研究推進センター 先端医工学研究ユニット, 助教 (80512764)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 多重共鳴NMR / 分子プローブ / 代謝反応 / 細胞内化学反応 / 安定同位体ラベル |
Research Abstract |
平成23年度は、(1)生体内での核酸異化代謝挙動を追跡するシステムの開発を目的とし、ピリミジン異化代謝反応を選択的に追跡可能な安定同位体ラベル化ウラシルプローブを設計・合成して、多重共鳴NMR法による異化代謝の動的挙動を解析した。具体的には、(1-1)N1位を15Nで、C6位を13Cでラベルしたウラシルプローブの新規合成に成功した。 (1-2)マウス肝臓組織抽出液中でのラベル化ウラシルの異化代謝反応を多重共鳴NMR法により解析し、夾雑物下でも基質(ウラシル)/代謝物(β-アラニン)選択的に追跡可能であることを見いだした。 (1-3)マウス体内における臨床薬剤(ギメラシル)が異化代謝反応に及ぼす影響を多重共鳴NMR法により直接評価することに成功し、薬剤の"その場"スクリーニング系の構築への道を拓いた。(2)多重共鳴シグナルの高感度化を目的として、安定同位体でラベル化した新規生体適合性ポリマーを設計・合成し、高分子化が選択性および感度に及ぼす効果について、多重共鳴NMR法により評価した。具体的には、(2-1)コリン骨格を有する 安定同位体ラベル化コリンモノマーの新規合成に成功した。 (2-2)得られたラベル化モノマーをATRP法により重合し、末端にマレイミド基を有するラベル化コリンポリマーの合成に成功した。(2-3) 高分子化(集積化)が選択性および感度に及ぼす効果について、多重共鳴NMR法により評価した。マウス肝臓抽出液中でのラベル化コリンポリマーの選択性を調べた結果、夾雑物が多数存在する生体系においても、多重共鳴法により高選択的に検出可能であることを明らかにするとともに、(2-4)高分子化(集積化)によりシグナル強度が著しく増大し、nMオーダーの高感度での検出に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
細胞内および生体内反応を「そのままの状態」で、かつ「選択的」に追跡する分子システムの構築を目標とし、「多重共鳴NMR法」を駆使して代謝・タンパク相互作用・細胞取り込みといった化学反応プロセスを解析する新手法の開発が本研究の目的である。平成23年度では、(1)核酸異化代謝反応を「その場」追跡可能な新たなラベル化ウラシルプローブを創製し、多重共鳴NMR法を用いた生体組織内での代謝反応過程を物質選択的に解析可能なシステムの構築に関して顕著な研究成果が得られた。平成23年度研究経費で購入した細胞/組織破砕装置を活用することによって、細胞内での代謝解析から組織内での解析へと展開した。マウス体内での代謝反応追跡および臨床薬剤が異化代謝反応に及ぼす影響を直接評価することに成功し、薬剤の"その場"スクリーニング系の構築への道を拓いた。この観点から、本研究は当初計画より進展したと考えている。本テーマの成果の一部をACS. Chem. Biol.誌に投稿し、受理された。異なる視点からも本研究が当初計画以上に進展したことを窺うことができる。(2)多重共鳴シグナルの高感度化を目的として、多核多重ラベル化高分子プローブを新規に設計・合成に成功し、高分子化が感度・選択性に及ぼす影響について一定の知見を得た。コリン骨格を有する安定同位体ラベル化コリンモノマーの新規合成経路の開拓に困難を要したが、良好な収率で目的化合物を合成する合成経路を見いだし、ラベル化コリンポリマーを合成することに成功した。当初の計画では、ラベル化ポリマーの設計・合成までが本年度の予定であったが、得られたラベル化ポリマーの感度および選択性に関して多重共鳴法により評価することに成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
研究は順調に進展しており、研究計画に大きな変更はない。前年度で得られたラベル化コリンポリマーをタンパク質の「タグ」として活用し、細胞内・生体内環境下でのタンパク質相互作用の挙動を多重共鳴NMRのシグナル変化により解析する。まずは、ラベル化コリンポリマーとタンパク質との結合反応の最適化を進める。末端活性官能基を有するポリマーとタンパク質との結合反応は、既存の報告例を参考にして迅速に研究を進める。「タグ」化する標的タンパク質は、乳がんで高発現する抗Her2タンパク質を一例として考えている。Her2タンパクの抗原-抗体相互作用を対象として、ラベル化ポリマーを共有結合させたHer2抗体とHer2抗原との相互作用を培養細胞抽出液・マウス生体組織抽出液内で解析することにより、in vitroとin vivo環境下でタンパク相互作用の変化、またその動的挙動の変化に関する基礎知見を得る。本テーマには、「タグ」化する標的タンパク質の大量合成が必須となる。次年度使用の研究費はこれに当てる。(3)細胞内・組織内物質輸送過程の動的挙動を選択的に解析する新たな多核多重ラベル化プローブの創製を進める。具体的には、細胞膜脂質の一つであるホスホリルコリンで形成されるリポソームを候補化合物とする。(3-1)安定同位体ラベル化コリンからラベル化ホスファチジルコリンへと誘導体化し、ラベル化リポソームを作製する。会合状態では、粒子あたりの多重共鳴シグナル感度が著しく向上することが予想される。(3-2)ラベル化リポソーム会合/脱会合状態を多重共鳴NMR法により機能評価するとともに、リポソームの粒径やホスファチジルコリンの脂肪酸構造を最適化し、感度の向上を図る。上述で最適化したラベル化リポソームを活用して、細胞内・組織内環境下におけるラベル化リポソーム由来の多重共鳴NMRシグナルを追跡する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究遂行には、一貫して有機合成化学的な手法、多重共鳴NMRを用いた物理化学的分析手法、タンパク質・細胞を扱うための生化学的な手法が必須である。現在、ラベル化分子プローブの有機化学的合成に必要な基礎設備、および物理化学的分析装置(紫外可視・蛍光分光計)は既に保有し、多重共鳴用NMR装置については共同利用する予定であるが、研究遂行のために必須である有機合成試薬、生化学関連試薬、ガラス器具、培養関連プラスチック製品等の消耗品を購入する。平成24年度研究計画を遂行するためには、「タグ」化した標的タンパク質の大量合成が必須となる。昨年度繰り越した研究費をこの標的タンパク質の購入費目およびラベル化高分子タグの合成に必須な安定同位体試薬の購入費目に充当することにより、本研究のより一層の進展を見込んでいる。前年度に細胞/組織破砕装置を購入したため、細胞組織抽出液およびマウス組織抽出液を迅速に入手可能となったが、培養細胞および実験動物は購入せざるを得ないため、その費目として計上している。また、研究遂行にあたって、生物分子科学、ケミカルバイオロジー、核酸化学、分子イメージングに関する研究を進めているグループと議論ならびに資料収集を行なう必要があり、その旅費として計上している。
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Research Products
(8 results)
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[Journal Article] Substrate/Product-Targeted NMR Monitoring of Pyrimidine Catabolism and Its Inhibition by a Clinical Drug2012
Author(s)
Yamada, H.; Mizusawa, K.; Igarashi, R.; Tochio, H.; Shirakawa, M.; Tabata, Y.; Kimura, Y.; Kondo, T.; Aoyama, Y.; Sando, S
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Journal Title
ACS Chem. Biol.
Volume: 7
Pages: 535-542
DOI
Peer Reviewed
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[Presentation] Direct In Situ Monitoring of Pyrimidine Catabolism and Its Inhibition Using Triple Resonance NMR Analysis2011
Author(s)
Yamada, H.; Mizusawa, K.; Igarashi, R.; Tochio, H.; Shirakawa, M.; Tabata, Y.; Kimura, Y.; Kondo, T.; Aoyama, Y.; Sando, S.
Organizer
38th International Symposium on Nucleic Acids Chemistry
Place of Presentation
Clark Memorial Student Center, Hokkaido Univ., Sapporo, Japan
Year and Date
November 10, 2011
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