2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23710276
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Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
山越 博幸 独立行政法人理化学研究所, 袖岡有機合成化学研究室, 客員研究員 (30596599)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | ラマン / 顕微鏡 / タグ / イメージング |
Research Abstract |
細胞内で分子を観察するために、蛍光標識が目印として用いられている。しかしながら蛍光標識は低分子化合物の標識としては大きすぎるため、標識化により化合物の活性がしばしば失われてしまうことが問題となっている。蛍光標識を用いずに分子を観察する方法として、分子振動に基づいて分子を検出するラマン顕微鏡法が挙げられる。ラマン顕微鏡法は、原理上、無標識で分子を観察することができるため、極めて魅力的な手法である。しかしながら、細胞内のような複雑な混合物中で、特定の分子のシグナルを選択的に抽出することが極めて困難であるという問題がある。このような背景のもと、本研究では、ラマン顕微鏡で分子を特異的に観察するためのラマンタグの開発と応用を行っており、大きな蛍光標識の影響を受けないイメージング技術の開発を目指している。3年計画の初年度は、当初計画に従い、ラマンタグの開発を行った。低分子化合物への適応を指向し、(1)分子量が50以下、(2)細胞がラマン散乱を示さない領域(1800 ~ 2800 cm-1)に強いラマン散乱を示すこと、(3)細胞内で安定性が高いことを満たす構造単位をラマンタグの候補として、種々の化合物のラマン散乱を詳細に調べた。その結果、小さなサイズと強いラマン散乱強度を併せ持つ「アルキン(炭素炭素三重結合)」が、最も理想的な構造単位であるという結論に至った。また、種々のアルキン化合物のラマン散乱の比較から、アルキンタグを適切な位置に導入することが、高感度検出に重要であることを明らかにした。現在、アルキンをラマンタグとして導入した様々な生物活性化合物の解析を行っており、その有用性を示すための検討を行っている途上である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
3年計画の初年度は、研究計画の第一段階として「ラマンタグの開発」を企図し、達成することができた。すなわち、タグの候補となる官能基を有する試薬や化合物のラマンスペクトルを測定し、特徴的かつ強いピークを与えるラマンタグのスクリーニングを行った。その結果、小さなサイズと強いラマン散乱強度を併せ持つ「アルキン」を最も理想的なラマンタグとして結論付けることができた。当初、研究計画の2年目に、研究計画の第二段階として「局在既知のモデル化合物を用いた概念実証」を計画していた。しかし予想外に概念実証は順調に進行し、本研究の採択通知とほぼ同時期という極めて早い時期に、第二段階の概念実証に成功した。すなわち、市販のアルキン化核酸アナログEdU(5-エチニル-2'-デオキシウリジン)の生細胞ラマンイメージングを行い、アルキンタグを用いたラマンイメージング「アルキンタグラマンイメージング」の概念実証を行った。その結果、核酸のミミックとしてEdUが次第に核に取り込まれる様子をラマン顕微鏡を用いて生きた細胞で観察することに成功した。この研究成果については、Journal of the American Chemical Society 2012,133, 6102-6105にて報告することができ、Nature Japan特集記事、日経バイオテクONLINE、科学新聞、bulletins-electroniques.comなどの各種プレスにも取り上げられた。以上のように研究初年度の目標を達成したことに加え、計画の第二段階を早期に達成したことから、本研究の達成度は当初の計画以上に進展していると位置づけられる。
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Strategy for Future Research Activity |
3年計画の初年度に、計画の第一段階「ラマンタグの開発」と第二段階「局在既知のモデル化合物を用いた概念実証」を行うことができたので、今後は第三段階「局在未知の生物活性化合物への応用」を行う予定である。これまでに得られた結果から、小さなサイズと強いラマン散乱強度を併せ持つ「アルキン」が最も理想的なラマンタグと結論したため、アルキンタグを用いたラマンイメージング「アルキンタグラマンイメージング」を局在未知の生物活性化合物に適応し、その有用性を示す事が目的である。具体的には、まず、現在興味を抱いている生物活性化合物の誘導体および各種プローブを合成し、その活性を細胞レベルの評価系で調べる事を計画している。次に、合成したプローブを用いて実際にイメージンを検討する予定である。ここで重要なことは本研究で有用性を見出したアルキンタグラマンイメージングと蛍光標識を用いた蛍光イメージングの比較である。アルキンタグは蛍光標識と比較して極めて小さいため、蛍光標識の導入と比べて活性低下を起こしにくいと期待される。また、アルキンタグラマンイメージングと蛍光イメージングの結果が異なることも十分に考えられる。生物活性の評価や標的タンパク質との相互作用など、多面的な角度から両者を詳細に比較し、どちらのイメージングがより無標識化合物(親化合物)の挙動に近いのかを比較・評価する予定である。また、アルキンが最も最適なラマンタグとして位置づけたが、他にもラマンタグとして適用し得る構造単位があるため、これらについても応用の可能性を模索する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
3年計画の初年度が概ね計画通り進行したため、次年度の研究費の使用計画は当初の通りである。すなわち、消耗品費全体をおよそ三分割し、(1)有機合成用の試薬および器具(2)合成化合物の活性を評価するための試薬および器具(3)細胞培養のための試薬およびプラスチック器具類、に充てる予定である。これまでに得られた知見については、学会、シンポジウム、誌面等で発表する予定であり、旅費や英文校閲費として直接経費を当てる予定である。また、印刷・複写費などに5パーセント以下の研究費を充てる予定である。
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Research Products
(7 results)