2011 Fiscal Year Research-status Report
水生植物ヒシの「キーストーン種」としての役割―植物体表面の動物群集に注目して―
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23710280
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
加藤 義和 京都大学, 生態学研究センター, 研究員 (50588241)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | ヒシ / フラクタル次元 / 生息場所構造 / 水生植物 / 群集生態学 |
Research Abstract |
水生植物の表面で生活する無脊椎動物を簡易かつ高精度に採集するために必要な器具の開発を行った。従来の研究では、水生植物の表面に付着する動物相を定量的に採集するために、アクリルの筒や円筒型のネットをかぶせて動物をふるい落とす方法が採られてきた。しかし、こうした方法では、水深に応じた採集は難しい。また、水深の深い場所で的確に採集を行うにはスキューバ潜水による作業が必要となり、危険が伴う。そこで、船上からでも安全に採集が行えるよう、長い柄をつけたトランク型の採集装置を新たに開発した。採集装置の開閉は、ロープを使った遠隔操作で的確に行えるように工夫した。試用および改良を繰り返すことで、単位容積当たりの水生植物および付着動物を高い精度で採集できるようになった。近年の三方湖では毎年、夏になるとヒシが繁茂し、巨大なヒシ帯が広範囲にわたって発生していた。しかし、平成23年の夏には、前年までと比較してヒシの繁茂量がきわめて少なく、生態系に大きな影響を及ぼすと考えられるヒシ帯を対象とした採集は行うことができなかった。そこで、三方湖の沿岸部に小規模に発達していたヒシ、クロモの群落を対象として、試験的な採集と空間構造の解析を行った。野外で採集した水生植物は実験室に持ち帰り、自然に近い状態になるように水槽に浮かべて写真を撮影した。その後、画像処理を行った写真に基づき、フラクタル次元を求めた。また、植物体の体積および表面積の測定、植物体に付着していた動物のソーティングも行った。その結果、ヒシとクロモでは、フラクタル次元に大きな違いがあることが明らかになった。ヒシに関しては、ロゼット部を横から撮影した場合と上から撮影した場合とではフラクタル次元が大きく異なるため、これらを統合して比較できるような新たな手法の開発が課題となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究を進めるために不可欠であった採集器具の開発は予定通り実施することができた。平成23年の夏には、前年までと比較してヒシの繁茂量がきわめて少なく、生態系に大きな影響を及ぼすと考えられるヒシ帯を対象とした採集は行うことができなかった。そのため、本来計画していたヒシ帯での調査を行うことができず、小規模な群落を対象としての調査に変更せざるをえなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成23年に引き続き、次年度の夏にも大規模なヒシ帯が発生しない可能性がある。7月末にはその年のヒシの繁茂状況が把握できるので、その時点でヒシ帯が十分に発達していれば、ヒシ帯内部の地点を選んで調査を実施する。平成23年同様、ヒシ帯の発達が見られないようならば、調査地を沿岸部の小規模な群落に変更する。8月に湖での野外調査を実施し、ヒシ、クロモおよびヨシを対象に、空間構造の比較解析を行う。ヒシについては、水深に応じた空間構造の変化やロゼットの立体構造を考慮し、空間構造の新しい評価方法を考案する。また、水生植物間での生息場所機能を比較するため、それぞれの群落で植物体に付着している無脊椎動物相を明らかにする。小型の無脊椎動物のソーティングには長時間の作業が必要となるため、学生アルバイトによる迅速なサンプル処理を目指す。得られた成果を統合し、ヒシの持つ「キーストーン種」「生態系エンジニア」としての機能を明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
採集した無脊椎動物の選別・同定を正確に行うために、すでに購入したシステム実体顕微鏡に付属させるハロゲン光源、CCDカメラおよびビームスプリッターを購入する予定である。夏に実施する予定の三方湖での現地調査では、安全確保および作業の効率化のため、調査補助者が1名同行する。また、三方湖周辺で調査する際には、移動および運搬のためにレンタカーが不可欠である。そこで、研究費の残りは現地調査に必要な旅費や消耗品代に充てる。また、採集した試料の選別作業を補助する学生アルバイトへの謝金、論文投稿にかかる費用等にも研究費を振り分ける予定である。
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