2012 Fiscal Year Annual Research Report
水生植物ヒシの「キーストーン種」としての役割―植物体表面の動物群集に注目して―
Project/Area Number |
23710280
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
加藤 義和 京都大学, 生態学研究センター, 研究員 (50588241)
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Keywords | ヒシ / フラクタル次元 / 生息場所構造 / 水生植物 / 群集生態学 |
Research Abstract |
今年度は、ヒシの繁茂が生態系に与える影響のうち、「水域の生物多様性を高める」という効果について検証するため、浮葉植物であるヒシおよび在来の沈水植物であるクロモの植物体の空間構造、表面に付着する生物群集の構成を調査、比較した。ヒシについては、ヒシが繁茂して密生した地点のほかに、ヒシがまばらな地点でも調査を行った。水生植物が生育している地点の環境要因として、各種水質項目の鉛直プロファイルを用いた。また、水生植物の植物体の空間構造を示す指標として、採集部位(ヒシはロゼット部分)の体積、表面積、フラクタル次元を測定した。その結果、ヒシが密生している地点では、底層(水深1.4m)付近では著しい溶存酸素濃度の低下が起こっていたが(1mg/L以下)、採集を行った表層付近の環境要因は、ヒシがまばらな地点やクロモが繁茂した地点と大きく変わらなかった。ヒシが密生した地点とまばらな地点では、ロゼット当たりの体積は密生地点の方が2-3倍程度大きく、表面積も数倍大きかったが、フラクタル次元については両者で差は見られなかった。一方、植物体表面に付着する底生動物群集を比較すると、ヒシが密生した地点のヒシ表面にはヤゴやユスリカなどの多様な動物が見られ、ヒシがまばらな地点のヒシやクロモの表面よりも多様かつ個体数も多かった。これらの結果は、ヒシが密生して繁茂することにより、ロゼット同士が密接して新たな空間構造が作り出されるため、付着性動物にとって新たなハビタットが創出されたことを示唆している。これらの成果は、ヒシの繁茂によって作り出される空間構造が水域の生物多様性に及ぼす影響について考える上で重要な知見である。
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