2011 Fiscal Year Research-status Report
樹木との共進化を考慮した植食性昆虫群集の多様性形成機構の解明
Project/Area Number |
23710281
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
平尾 聡秀 東京大学, 農学生命科学研究科, 助教 (90598210)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 生態学 / 昆虫 / 森林 / 生物多様性 / 共進化 |
Research Abstract |
森林生態系における植食性昆虫の多様性は膨大な生物資源であり、近年その減少に対する懸念と保全の必要性に注目が集まっている。しかし、樹冠の植食性昆虫の多様性は定量的に評価されておらず、その形成機構も明らかにされていない。 本研究では、樹木との共進化を考慮して、植食性昆虫群集の多様性の形成機構を解明することを目的とする。具体的には、1. 植食性昆虫の種多様性に対する樹木の系統的制約、2. 植食性昆虫の食性進化、3. 樹木と植食性昆虫の共種分化の重要性を検証する。また、植食性昆虫群集の多様性動態モデルを構築し、森林撹乱が生物多様性に及ぼすリスクを予測することによって、その保全に有効な生態系管理シナリオを提案する。 平成23年度は、関東・北海道・九州で野外調査を行い、植食性昆虫の種多様性パターンを定量する統計モデルの構築を行った。関東では、秩父山地の原生的な冷温帯林に、1000 mの標高傾度で20ヶ所の調査区を設定し、樹木と植食性昆虫の種多様性データ・葉の特性分析用の試料・樹木と植食性昆虫の系統推定用の試料を採取した。また、北海道と九州でも、原生林に調査区を1ヶ所ずつ設定し、同様のデータと試料を採取した。葉の化学特性として、LMA・CN・総フェノール量・縮合タンニン量・リグニン量を測定し、植食性昆虫にとっての資源の質を定量化した。なお、樹木の系統情報は、既存情報から編集した。 これらのデータに基づいて、植食性昆虫の種多様性に対する樹木の系統的制約を検証した。その結果、樹木種間の系統的距離とともに植食性昆虫群集のβ多様性が増加し、資源の質よりも樹木の系統的制約が植食性昆虫群集の多様性に大きく寄与していることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、樹木との共進化を考慮して、植食性昆虫群集の多様性の形成機構を解明することを目的としている。具体的には、樹木と植食性昆虫の相互作用に関する3つの作業仮説を検証する。1. 植食性昆虫の種多様性に対する樹木の系統的制約、2. 植食性昆虫の食性進化、3. 樹木と植食性昆虫の共種分化の重要性。最終的には、植食性昆虫群集の多様性動態モデルを構築し、森林撹乱が生物多様性に及ぼすリスクを予測することによって、その保全に有効な生態系管理シナリオを提案する。 平成23年度は作業仮説1「植食性昆虫の種多様性に対する樹木の系統的制約」の検証に成功しており、おおむね順調に研究が進展しているといえる。残りの作業仮説については、データをより充実させた上で、平成24年度以降に検証することを予定している。樹木と植食性昆虫の種多様性の調査や化学分析については、当初の予定通り進んでいるが、植食性昆虫の系統解析については、今年度に当初の目標を達成することができなかったため、平成24年度に作業することを予定している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、樹木と植食性昆虫の相互作用に関する3つの作業仮説のうち、まだ取り組んでいない「植食性昆虫の食性進化」と「樹木と植食性昆虫の共種分化」に関する仮説の検証を進める。前者の仮説の下では、樹木の系統的多様性が高いほど、広食性種が多くなると予測される。この仮説を検証するには、調査地域を増やし、植食性昆虫の食性に関するデータを採る必要がある。平成24年度は、新規調査区の設置も含め、野外調査を継続するとともに、植食性昆虫の食性に関する文献収集・摂食実験を行い、仮説を検証する。 後者の仮説の下では、樹木の系統的多様性が高いほど、樹木と植食性昆虫の系統関係の一致度が低いことが予測される。この仮説を検証するには、樹木と植食性昆虫の系統情報を得る必要がある。平成24年度は、科レベルで樹木と植食性昆虫のモデル分類群を決め、塩基配列の決定と系統解析を進め、仮説の検証に結びつけることを計画している。最終的には、樹木と植食性昆虫の相互作用に関連するパラメーターを抽出し、植食性昆虫群集の多様性形成を説明する食物網モデルの構築する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度は、野外調査を効率化するため、物品費と人件費・謝金の支出が当初の計画を上回った。しかし、調査地の多くを関東に設定したため、旅費の支出が当初の計画よりも少なくなり、また植食性昆虫のDNA抽出作業がやや遅れたため、植食性昆虫の系統推定に必要な塩基配列解析の外注サンプル数も当初の計画を下回った。その結果、「次年度に使用する予定の研究費」が生じた。 平成24年度は、野外調査に使用する物品の多くがすでに購入済みのため、物品費の支出は少なくなると見込まれる。また、人件費・謝金の支出も予定していない。その一方、平成24年度は植食性昆虫の系統推定を進める予定のため、塩基配列解析の外注サンプル数が平成23年度より増え、その他費目の支出が多くなると見込まれる。また、北海道・九州での野外調査を予定しているため、旅費支出は平成23年度と同程度になると考えられる。平成23年度に生じた「次年度に使用する予定の研究費」は、旅費とその他費目に使用する予定である。
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