2013 Fiscal Year Annual Research Report
中国の辺境統治をめぐる「持続可能な発展」と資源管理の現地主導性開拓に関する研究
Project/Area Number |
23710299
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
別所 裕介 広島大学, 国際協力研究科, 助教 (40585650)
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Keywords | チベット高原 / 牧畜民 / 中国の辺境統治 / 持続可能性 / 資源管理 |
Research Abstract |
本研究では、環境保全をめぐって政治・経済・社会にわたる複合的諸課題に直面しているチベット高原の「持続可能な発展」を構想する上で不可欠な「被開発地域の人々の参与」を問題関心として、従来現地アクターとしては看過されてきたチベット仏教僧院組織とその関連団体が果たしうる役割を総合的に検討した。 最終年度ではこれまでの調査結果を総括するため、僧院組織の活動と民間組織の活動を統合的に照らし合わせる作業を進めた。現地調査では、当該村の牧畜民有志によって立ち上げられた環境団体である「コルユグ・ツォクパ」の活動実践を中心に、実際のコミュニティ・レベルの環境保全活動への参与とメンバーへの聴き取りを行い、彼らの環境知識と地域の主導的僧院との関係をまとめた。 続いて、中央政府による辺境開発の出先機関である環境保全局、および内地の富裕層に支えられた国内NGOがこの地域で展開する環境保全活動の実態についても調査を行い、特にこれらの機関が当該村の草の根環境団体に及ぼす財政的・政治的影響を、マイナスとプラスの二側面から検討した。 これにより、外部の環境保護組織が近代的環境管理の知識を活動の土台としているのに対して、牧畜社会側のミクロな環境団体は「仏教を通した環境認識」という自らの価値判断を基礎として、外部組織との様々な交渉に接続していることが明らかとなった。 以上の調査の進展から、中央主導の辺境統治と資源開発の全体文脈において、在地の牧畜民が自らのローカルな環境知識を元に立ち上げる、生活圏内のミクロな環境・資源問題の解決に向けた行動論理が、国家規模の環境主義体制の構築と矛盾しないものであることが明らかとなった。このことは、従来中国の国家政策と辺境部の宗教文化とが相容れない関係にある、と捉えてきた固定的な見方に対し、双方が協働しうる事例を環境・資源問題から提起したものとして画期的な意義を持っている。
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