2011 Fiscal Year Research-status Report
ポスト・コンフリクト期イラクにおける国家建設の包括的研究
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23710301
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
山尾 大 九州大学, 比較社会文化研究科(研究院), 講師 (80598706)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | イラク / 国家建設 |
Research Abstract |
本研究は、イラク戦争(2003年)後のポスト・コンフリクト期イラクにおける国家建設のプロセスと問題点を多角的かかつ包括的に明らかにし、イスラーム主義政党の政権運営メカニズムを解明することを目的とする。 具体的には、トランスナショナルなネットワークが内政に与える影響、民主化とガバナンスの定着、国民和解政策、治安機関の形成・強化、経済復興の5つの側面から、紛争後イラクの国家建設のダイナミズムを包括的に明らかにすることを目指すものである。 平成23年度は、5つの側面のうち、(1)トランスナショナルなネットワークが内政にいかなる影響を与えたかという問題、(2)民主化とガバナンスがどのように定着していったのかという問題を明らかにすることを目指した。 (1)については、政権党となったイスラーム主義政党が、亡命時代を通してイラン、シリア、レバノン、湾岸諸国、英国において構築してきたトランスナショナルなネットワークとそれに立脚した運動の実態を精査した。そして、こうしたネットワークがポスト・コンフリクト期イラクにおける内政にどのように影響しているのかを分析した。これによって、イスラーム主義政党が、政権運営において、過去に構築した宗教的ネットワークをいかに活用しているのか、そのメカニズムを実証的に明らかにした。 (2)については、国会選挙、地方県議会選挙の分析から制度的民主化の定着過程を明らかにし、イスラーム主義政党間の差異を作り上げてきた歴史的相克が、ガバナンスの実施においていかなる対立に帰結しているのか、そのメカニズムを解明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成23年度に実施した研究のうち、トランスナショナルなネットワークの解明については、これまでの成果をまとめ、『現代イラクのイスラーム主義運動――革命運動から政権党への軌跡』(有斐閣、2011年)を公刊した。さらに、こうした歴史的なネットワークが、戦後イラク政治に与えた影響について、一次資料のさらなる読み込みを行った。 民主化とガバナンスの定着については、戦後イラクで実施されたすべての選挙を包括的に分析し、どのような力学が働いたのか、政党支持構造がどのように変化したのかを分析した論文("Sectarianism Twisted: Changing Cleavages in the Elections of Post-war Iraq", Arab Studies Quarterly, 34 (1), pp. 27-51, January, 2012)を国際ジャーナルに投稿し、公刊した。 以上のことから、平成23年度は、資料読み込み、現地調査の成果をまとめた論文の公刊が可能となり、予想以上の進展を見せた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は、上記の5つの側面のうち、(1)国民和解政策と(2)治安部門の改革という2つの問題の分析に力点を置きたい。 (1)については、各勢力が国民和解という政策をどのように設定し、それをいかに独自の権力闘争に利用しているのかを、各政党の戦後8年間の政策を包括的に整理することで、解明する。同時に、紛争を経て国民和解というアジェンダが設定されたことで、各政党の活動とその後の国家建設にいかなる影響を与えているのかという問題を分析する。さらに、選挙における国民和解政策の詳細を精査することで、各政党がイラク国民の範囲をどのように規定しようとしているのかを明らかにする。これを通して、国民和解政策がネーションビルディングに与える影響も分析する。 (2)については、これまでほとんど明らかになっていないイラク軍と警察機構の再建のプロセスを解明し、国軍と警察機構内部で露呈しつつある出身地域、社会階層、宗派、民族の差異に起因する対立の実態を明らかにし、それが治安部門の強化に与える影響を探る。また、これまでSSR(Security Sector Reform)論の前提となっていた中央集権的な暴力装置の一元化に反するイラクの実情について、部族によって構成される非公的治安機関の拡散に着目し、その実態を明らかにする。また、その非公的治安機関が警察機構や国軍といかなる対立/相互補完関係にあり、それが国家建設にどのような影響を与えているのかを解明する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
第1に、イラク国内紙のデータベースを用いた情報収集を行う。オンラインで入手不可能な新聞などの資料については、ファーレフ・ジャッバール所長(在レバノン、イラク戦略研究所)との連携で、国内の新聞、アーカイヴスへアクセスする。さらに、BBC Monitoring Serviceなどの国際メディアアーカイヴも利用する。研究費は、こうした資料の購入費用に不可欠である。 第2に、国民和解政策の内部事情や治安問題など、公的資料には反映されにくい情報の収集については、イラク国内の関係者、研究者への聞き取り調査を行う。ただ、首都バグダードでの調査は治安上困難であるため、隣国および北部のクルド地域政府内にて調査を実施する。W.マフムード教授(バグダード大学歴史学部)、M.サミール教授(バグダード大学政治学部)に聞き取り調査を行う。研究費は、こうした聞き取り調査に使用する。
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