2013 Fiscal Year Research-status Report
チャム系住民とイスラームの関係に関する地域間比較研究
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23710314
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Research Institution | National Museum of Ethnology |
Principal Investigator |
吉本 康子 国立民族学博物館, 民族社会研究部, 研究員 (50535789)
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Keywords | 国際情報交換 / 東南アジア大陸部 / チャム / 写本 |
Research Abstract |
本研究は、ベトナム中部から東南アジア大陸部のメコン川流域、中国・海南島およびアメリカ西海岸などに拡散し、ムスリムとして暮らすチャム系住民の宗教実践を比較検討することで、イスラームの要素とローカルな要素の交渉過程の多様性および民族・宗教ネットワークの関係性について検証することを目的としている。とりわけ、イスラームの共通項とされる諸実践に着目し、各地におけるイスラームの展開に関する新資料を提示すること、その上で、イスラームの「多様性」や「統一性」という視点を再考することを目指す。 平成25年度は、ベトナム、カンボジア、アメリカ合衆国のチャム系ムスリムを対象に行った現地調査で得た史資料のうち、イスラーム的知識の継承の媒体である文書に焦点を据えて研究を行った。特にベトナム中南部の「ムスリム」であるチャム・バニの人々が継承してきたチャム文字及びアラビア文字によって書かれた写本の分析を中心に行い、仏領期以降の記述において存在が指摘されてきたチャム・バニの社会における手書きの「クルアーン」の実態と継承の状況について検討した。ベトナム中南部は東南アジアの中でも初期にイスラームの影響を受けたとされるにもかかわらず研究上の空白が多い。従って、この地域に残る写本等一次資料の分析を進めることは、カンボジア、アメリカ合衆国などに拡散したチャム系ムスリムの状況との比較のためだけでなく、東南アジア大陸部のイスラーム受容の歴史を解明するためにも必要である。なお研究成果の一部は「チャムの伝統文書にみるイスラーム的宗教知識-ベトナム中南部のチャムが継承する写本及び目録の分析を通した予備的考察」として公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
3年計画の最終年にあたる本年度は、昨年度までに収集することが出来たベトナム、カンボジアおよびアメリカ合衆国におけるチャム系ムスリムに関する史資料の整理と分析を昨年度に引き続いて進めた。その上で、ラオス、タイ、マレーシア、中国海南島などのチャム系ムスリムコミュニティを訪問し、比較研究を進めるための資料の収集と分析を行い、最終報告書をまとめる予定であった。しかしながら、現地調査を予定していた夏季休暇の半ば以降、産前期間の移動の制限などにより、これらの調査と十分な研究活動を遂行することが出来なかった。そして平成25年度の途中から産前産後の休暇及び育児休業の取得を申請し、これが承認されたため、平成25年2月1日から平成26年12月31日まで研究活動を中断することにした。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の今後の推進方策は以下のとおりである。出産・育児期間にあたる平成26年度前半までは現地調査を伴う研究活動を中断し、自宅でデータ整理や最終報告書の作成を可能な範囲で進めていく。そして育児が安定すると予想される平成27年1月以降に現地調査を伴う研究活動を再開していく予定である。調査対象地域に関しては、今年度に行う予定であったラオス、中国、タイ、マレーシアのチャム系ムスリムのコミュニティー訪問を優先して行う。調査項目の内容に関しては、これまでの調査地との比較が可能な文書(チャム文字写本等)等知識の継承媒体を中心に、礼拝空間、制度、礼拝・儀礼的実践についての名称・語源・内容、国家による位置づけなどコミュニティーの形成に関わるもの、インフォーマントの来歴と本国との関わり等について随時聞き取り調査を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
代表者は平成25年度の夏季、冬季の長期休暇を利用し、ラオス、タイ、マレーシア、中国海南島などで現地調査を行う計画を立て、そのための旅費およびそれに伴う諸経費として経費を使用する予定であった。しかしながら夏季休暇の半ば以降、妊娠・産前期間の移動の制限などにより調査や十分な研究活動を遂行することが出来ず、計画通りに経費を使用することが出来なかった。 代表者は平成25年2月1日から平成26年12月31日まで、産前産後の休暇又は育児休業の取得に伴い研究を中断している。その後は、平成27年1月1日以降、研究活動を再開する予定である。未使用の経費は、研究活動を再開した後の現地調査およびそれに伴う諸経費、最終報告書作成のための経費等として使用する。具体的な計画として、平成27年1月から3月までにそれぞれ5日間から1週間の予定でラオス、タイ、マレーシア、中国海南島におけるチャム系ムスリムのコミュニティを訪問、資料を収集し、これまでのデータとともに整理し、最終報告書を作成する。
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