2011 Fiscal Year Research-status Report
「アーキテクチャの排除機能」と「身体の承認」に関する社会哲学的研究
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23720001
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
見附 陽介 北海道大学, 大学院文学研究科, 専門研究員 (10584360)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 哲学 / 障害学 / アーキテクチャ / 社会身体論 / 身体の多元論 |
Research Abstract |
本年度は研究計画に即して、「アーキテクチャの排除機能」の実態の解明と分析に取り組んだ。とくに身体と社会的構築環境としてのアーキテクチャとの具体的な関わりを、障害をめぐる様々な事例から検討し、理論的な分析を行った。その結果、社会的構築環境それ自体におけるいくつかの原理的な差異(たとえば物理的な意味での社会的身体と象徴的領域における社会の擬制的身体の差異)が明らかになり、それぞれの領域における社会‐身体関係の特性の解明が、この問題における研究上の重要な焦点となることを確認した。 上記の社会‐身体関係の具体的状況の分析は次年度以降も続けられるべきものだが、ひとまずは本年度の研究の成果として、そのような分析を遂行する上で必要となる理論的なフレームワークの基礎部分を「社会身体論」として提起し、論文「物的身体と自然支配――現象学的身体論から批判的社会身体論へ――」において発表した。当論文は『哲学』(北海道大学哲学会編)にて印刷中であり、平成24年度中に発行される。 また研究計画に即して他方で、「身体の承認」をめぐる理念的・規範的研究も並行して遂行した。この研究は本年度の社会思想史学会・第36回大会における研究報告「公共圏と身体――公共性のアーキテクチャをめぐって――」として発表された。身体の承認をめぐる規範として、一つにはハーバーマスの公共圏論における「普遍的な接近可能性」の理念を、また同様にアレントの公共圏論における「アイデンティティーの多元的な承認」の理念とを検討した。しかしハーバマス、アレントともにその公共圏論において身体の問題が十分に検討されていない点を問題とみなし、上記の規範的理念を身体の問題として再検討する必要性を確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、とくに身体の問題に即して「社会的排除」のメカニズムを分析し、他方で身体の差異の承認による「包含」の必要性とその具体的な条件を提示することを目的とするものである。 身体の問題に即した社会的排除のメカニズムの解明については、様々な事例を研究することで、「機能的な同一化コード」の働き、そして社会的構築環境が実際にそのようなコードとして作用する原理的な側面を明らかにすることができた。 他方で、身体の差異の承認と包含の問題については、公共圏思想の中に身体の問題を置き入れるという試みによって、その規範的内容を明らかにし、同時にこれまでの公共圏思想のなかで十分には扱われてこなかった身体に特有の問題を検討することで、包含の具体的条件を明らかにすることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は二つのテーマを持っている。一つは身体の排除の問題を、社会的構築環境としてのアーキテクチャと身体との関わりから検討することである。この点は引き続き様々な事例に即して検討する必要があるが、とりわけ分析のための理論的フレームワークをより一層精緻化する必要がある。そのための今後の方策としては、テクノロジーとエージェンシーをめぐるアクターネットワーク理論の議論を精査することを予定している。 他方でもう一つのテーマである身体の承認をめぐる規範的研究については、引き続き公共圏思想における身体の問題を検討することとなるが、加えてより発展的な研究として、多文化主義における規範的研究を、身体の多元論という新しいテーマへと翻案する作業を予定している。これは具体的に「障害者」というマイノリティ集団のアイデンティティが文化的マイノリティといかに異なるものであるかという点を解明する作業として遂行される。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
経費の節減の結果生じた使用残については、学会参加旅費および物品費(図書購入費)に使用する。旅費総額:110,000円、物品費総額:100,000円。15,000円は平成23年度に実施した図書購入の支払に使用する 旅費に関しては、研究発表と情報収集のために二つの学会への参加を予定している。 物品費に関しては、主に図書購入費として使用する。購入図書としては、多文化主義関係の書籍の購入を予定している。これは、身体の承認をめぐる規範に関して多文化主義における議論を身体の多元論へと展開する作業のために必要となるものである。他方で技術論関係の書籍の購入も予定している。これは社会的構築環境としてのアーキテクチャと身体との関係を検討する際に、テクノロジーとエージェンシーの関係が次年度以降重要な研究テーマとなるためである。具体的にはアクターネットワーク理論関係の書籍などが購入対象となる。 図書購入費が次年度使用額を越える場合には翌年度へと購入を持ち越す。
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Research Products
(2 results)