2011 Fiscal Year Research-status Report
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23720004
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Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
井上 彰 群馬大学, 社会情報学部, 講師 (80535097)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 政治哲学 / 倫理学 |
Research Abstract |
平成23年度は、デモクラシーの規範性をめぐる哲学的研究の最新動向についてサーヴェイし、自由と平等で構成される根本理念としてのデモクラシーの概念分析を試みた。具体的には、2011年度日本政治学会の年次大会にて「分析的政治哲学の方法-概念分析の擁護-」と題する研究報告を行い、そもそも概念分析の方法論的意義はどういうところにあるのかについて、それに対する批判や嫌疑を斥けるかたちで明らかにした。「ドゥオーキンは平等主義者か?」(宇佐美誠・濱真一郎編著『ドゥオーキン-法哲学と政治哲学-』勁草書房、2011年所収)では、政治哲学における概念分析の重要性を、概念分析に対し批判的なロナルド・ドゥオーキンの議論への反批判を展開するかたちで明らかにした。「デモクラシーにおける自由と平等-デモクラシーの価値をめぐる哲学的考察-」(齋藤純一・田村哲樹編『アクセス デモクラシー論』日本経済評論社、2012年所収)では、デモクラシーの哲学的研究の広範にわたるサーヴェイをふまえて、デモクラシーの概念分析を試みた。そこでは、自由と平等がデモクラシーを価値的に構成するがゆえに、デモクラシーの理念に強い規範性が見出せるとする議論(ルソーを起点として、ジョン・ロールズ、ジョシュア・コーエン、デイヴィッド・エストランド、そしてトマス・クリスティアーノの議論)に焦点を当て、結局のところデモクラシーの強い規範性が自由と殊に平等を価値基底的なものとしてみる見方からは導き出せないことを明らかにした。さらに「正義としての責任原理」(宇野重規・井上彰・山崎望編『実践する政治哲学』ナカニシヤ出版、2012年所収)では、デモクラシーを包括的に秩序づける正義の構想として、諸個人の選択パタンに付随する責任を規定する原理、すなわち〈正義としての責任原理〉が有望であることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成23年度の研究目的、すなわち、デモクラシーの規範性をめぐる哲学的研究の最新動向についてサーヴェイするという目的、およびそれをふまえてデモクラシーの概念分析を試みるという目的を果たすことができた。とくに概念分析の方法論的特徴がどういうものかについて明らかにしたうえで、広範のサーヴェイによって裏付けられたデモクラシーの解明作業を行うことができたのは、今後の研究の進展にとっても非常に大きいといえる。それにくわえ、平成24年度の研究成果として刊行を予定していた共編著『実践する政治哲学』の公刊を早めることができた。以上から、当初の計画以上の研究成果をおさめることができたといえる。 ただし、2011年5月に子供が生まれたことで、育児その他の諸事情から、当初予定していた国際学会での研究報告が果たせなかったことが悔やまれる。とはいえその一点を除けば、全般的に研究は予想以上の成果をあげるなど順調であり、その点で一切問題は生じていないと断言できる。
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Strategy for Future Research Activity |
デモクラシーの現実主義的理念としての間接デモクラシーのあり方について、われわれの不完全性とどう折り合うのかという論点をふまえつつ、デモクラシーへの動機づけをめぐる問題を中心にオリジナルな議論を提出する。とくに、これまで研究で不十分にしか検討が付されてこなかったデモクラシーへの動機づけの問題に関して、研究代表者によるこれまでの研究成果、とくに平等主義と責任の関係についての哲学的研究を援用しながら検討する予定である。以上の研究を遂行しながら、平成23年度の研究成果と併せて報告、論文化を進めていく。具体的には、平成23年度の研究成果を論文化したものを内外の学会誌や『思想』等の学術性の高い商業誌に投稿する予定である。平成24年度の研究成果については、国内の学会や2012年6月にスイスのチューリッヒで開かれる社会正義の理念についてのワークショップで報告する予定である。また、当該年度は平等論の単著執筆にとりかかる計画を立てていることから(岩波書店から出版予定)、以上の研究成果の一部は各章に織り込む予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
〈消耗品費〉本研究に必要な資料は高額な洋書が中心であるため、1冊10千円として、平成24年度は、図書を30冊購入することを見込んで、消耗品費を300千円計上する。〈旅費〉国内外で学会報告を行う際にかかる旅費(交通費と宿泊費)として、平成24年度は国内旅費に50千円、外国旅費に276千円を計上する。〈謝金〉平成24年度の研究では、研究代表者が専門としていないデモクラシーの実証的研究成果に関する専門的知識が求められることから、「専門的知識の提供」を50千円計上する。また海外の学術雑誌への投稿のために、英文校正を依頼することから、その予算(校閲謝金)を50千円計上する。 なお、平成23年度では当初予定していた国際学会での報告が、育児等の理由により当該年度で果たせなかったため、その分が平成24年度の研究で使用する予定の旅費(外国旅費)に充当されている。
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Research Products
(4 results)