2011 Fiscal Year Research-status Report
現代フランクフルト学派研究:アドルノの影響作用史を基軸として
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23720010
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
入谷 秀一 大阪大学, 文学研究科, 助教 (00580656)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 国際研究者交流 / ロシア / ウラジオストク極東技術大学 |
Research Abstract |
研究実施計画(2011年度)の通り、申請者はフランクフルト社会研究所の「批判理論のための国際研究グループ」にて同僚であったマクシム・ブラネンコ氏の招聘により、2011年5月27日にウラジオストク極東技術大学にて、当該大学教授セルゲイ・E・ヤチン教授の主宰するシンポジウム「諸文化の境界における哲学像」にて講演を行った(「何が『君自身について物語れ』と命じるのか―自伝、伝記、そして生政治―」)。活発な議論が交わされ、国際連携の強化がはかられたことは大いに有意義であった。なおこれは共著『生命と倫理の原理論――バイオサイエンスの時代における人間の未来――』(檜垣立哉編、大阪大学出版会)として2012年3月に公刊された。 また申請者は2011年12月13日に大阪大学にて、当該大学人間科学部教授檜垣立哉氏の主宰する最先端ときめき推進事業(課題名「バイオサイエンスの時代における人間の未来」)において口頭発表を行った(「アドルノとは誰か――ビオグラフィーのビオポリティーク」)。これは研究計画全体のテーマでもある生活史、ナラティブ、自伝といった観点からアドルノ・ホルクハイマーの共著『啓蒙の弁証法』を読み解く試みであり、彼らが西洋の原テクストともいうべきホメロスの『オデュッセイア』をどう「脱構築」したか、その方法論と射程について論じたものである。文献学的な基礎研究であったが、同時に研究計画全体の方向を指し示すものとして非常に有意義な発表であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
アドルノの影響作用史を現代のフランクフルト学派、およびバイオポリティクス、バイオエシックスを巡る現代的状況に照らし合わせて評定するという申請者の計画は非常に順調に進んでいる。上記の2つの発表はその成果であり、加えて申請者は2012年3月に「批判的社会理論研究会」(大阪大学)にて発表を行ったが(「制度の道徳的基礎づけは可能か――ホネット『イデオロギーとしての承認――道徳と権力との連関に寄せて』から承認論の現在を読む」)、これはフランクフルト学派第3世代を代表するA・ホネット氏の相互承認論を検討するという2012年度の研究計画を先取りするものでもあった。 敢えて課題を指摘するなら、2011年度の研究計画にあったバイオエシックスとナラティブ・セラピーとの関係という、どちらかと言えば医療分野における実証研究が不十分であることが挙げられるが、これは2012年度に引き続き遂行する課題として位置づけたい。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き当該の課題を遂行するとともに、国内における関連学会に出席し情報収集を進めるだけでなく、フランクフルト学派のコンテクストにおけるビオス(生)全般の議論を把握するために、ドイツ国内での資料収集や研究会参加を遂行する。具体的には、研究計画にあるように、2010年に大阪大学に招聘された若手のアドルノ研究者であるオートランド博士との国際連携を模索している。また氏が注目するキー・ワードである「生の技法(Lebenskunst)」は今やドイツの社会哲学、美学、倫理学の分野で横断的に議論されているタームの一つとなっているが、晩年のM・フーコーが着目したこの概念が申請者の研究テーマである「自伝、生活史、ナラティブ」とどう関連してくるのか、という点についても色々と探ってゆきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
2011年度は予算の大半を文献購入と国内の学会出席・学会発表に当てたが、2012年度は文献購入とともに、海外での研究活動にも予算を充当する計画である。
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