2011 Fiscal Year Research-status Report
生物学・心理学がベルクソン哲学に与えた影響に関する文献的・実証的研究
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23720013
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Research Institution | Kagawa University |
Principal Investigator |
三宅 岳史 香川大学, 教育学部, 准教授 (10599244)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | 個体発生研究史 / 生物の目的性概念 / 文献調査 |
Research Abstract |
ベルクソンは『創造的進化』第1章で、ドリーシュなどの新生気論と呼ばれる立場を内的目的性として批判している。その批判の根拠として、目的性は生物個体に限られないという議論を展開しており、その批判を梃子にして目的性を生物種や進化全体に広げることで、彼の進化の鍵概念である「エラン・ヴィタル」が出てくるのだが、目的性を個体に限ることに対する批判のポイントが当時の科学的議論の文脈を抑えないとよく理解できなかった。そのためドリーシュの文献を中心に、彼が目的性概念をどのように理論化しているのかということを調査した。 その結果、確かにベルクソンによる議論の通り、ドリーシュの目的性の理論(調和等能系、エンテレキー)が生物個体を中心に構成されていること、彼がその概念を系統発生(=進化)に適用することは慎重であることなどが明らかとなった(研究成果1)。ただ、研究の進行と同時に、ドリーシュがそのような慎重な態度をとる背景には、非常に複雑な科学史的背景が絡んでいることも明らかとなった。ドリーシュはヴィルヘルム・ルーのもとで研究を始めたが、ルーはヘッケルの系統発生から個体発生を抽象的に関係づける議論(反復説)への批判として、個体発生を厳密に論じるために「発生力学」を確立して発生の厳密な因果的説明を明らかにしようとした。この立場からすると安易に、個体発生で判明したことを進化論の説明として展開することはできなくなる(研究成果2)。また、同じルーのもとで研究していたヴァイスマンの生殖質の議論に対して、ドリーシュは自らの生気論の立場から批判している。恐らく上記の『創造的進化』でのベルクソンの議論はこの両者の文脈が深く関わり、どうやらベルクソンは何らかの理由で後者の立場に立っているらしいということまで推察できる(研究成果3)が、その理由が何かまでは踏み込んで知ることはできなかった(今後の課題)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ベルクソンが『創造的進化』第一章で論じている目的論の議論の内、生物個体に目的性を限定する批判がドリーシュに向けられていること、その批判の文脈はドリーシュとヴァイスマンの間の議論を背景にしていること、さらにその背後には、個体発生は系統発生を反復するというヘッケルの反復説への両者による批判的継承が控えているらしいことが判明した。そして、ベルクソンは目的論寄りという意味ではドリーシュに近いが、個体発生と系統発生を切り離して論じるドリーシュの科学的立場には賛同しない。一方で、ヴァイスマンの機械論に関してベルクソンは同意を控えると思われるが、ヴァイスマンの生殖質説については、系統発生を説明するメカニズムとして引き合いに出している。このように、平成23年度では、個体性と目的論の議論を解明するために研究を行ったが、当時の科学では個体発生と系統発生が結びついたり、切り分けられたりして議論されており、個体性の議論のなかには生物進化の問題も入り込んでいることが判明した。 このように、問題が論じられている背景を解明し、対立する論点を整理できたという点では、当初の目的を到達できたと考えているが、そこに様々な問題や論者が複雑に絡み合っているため、これらをきちんと切り分けた上で、議論の詳細を追う必要があり、まだ問題の全容が解明されるに至ったとは言えない。だが幸いにも、平成24年度の研究は、進化の問題、特にヴァイスマン周辺を調査する予定であったので、平成23年の問題と並行しながら、研究を進めていくことが可能である。恐らく、平成24年度の調査対象である進化の問題がある程度判明することで、平成23年度の対象であった個体性の問題や『創造的進化』のベルクソンの批判と彼の立ち位置もより明確になると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度では、創造的進化で議論される様々な進化説(ダーウィンの自然淘汰説の他にヴァイスマンの生殖質説、ド・フリースの突然変異説、アイマーの抵抗進化説、コープの新ラマルク主義など)とベルクソンの進化論の関係を議論する予定を立てていた。また当初からそれらの進化論仮説のなかでも、獲得形質を批判したヴァイスマンの議論を中心に研究を進める予定であったので、この点は予定通り文献を収集し、研究を重ねることにしたい。 系統発生に関しては獲得形質の否定によって、新ラマルク主義を批判したという文脈からヴァイスマンの研究を重点的に解明する予定であったが、平成23年度の研究から、ヴァイスマンが個体発生に関してはドリーシュとの関係でも重要であることが判明したため、この点も重ねて研究することにし、『創造的進化』で参考文献として挙げられているヴァイスマンの文献Aufsatze uber Vererbung, 1892、Vortrage uber Descendenztheorieなどの研究を行い、個体発生と進化という焦点を二つに絞って解明することにしたい。一つ目は、個体発生の説明理論として生殖体質であり、二つ目は獲得形質を批判する系統発生の説明理論としての生殖体質である。前者ではドリーシュやルー、ヘッケルとの関係からヴァイスマンの議論を明らかにし、後者ではヘッケルの反復説をある側面で継承している新ラマルク主義への批判という側面からヴァイスマンの議論を解明する。双方の陣営に関連している文献などもあわせて収集し、問題の背景をなるべく解明することにしたい。そして、平成23年度では分からなかった後者の進化の議論が、前者の個体発生の議論にどう反映しているかという点をより明確にし、それらがベルクソンの『創造的進化』のなかの目的性の議論に反映されているのかということを見る予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
引き続き文献の収集とそのための複写代、資料収集等や学会やシンポジウムのための旅費などにより研究費を使用する予定である。なお、平成24年に予定していた国外への資料収集に関しては、平成23年度と24年度で行っている生物学関係の研究から、平成25年度に心理学関係の研究に移ることもあり、また現在電子ファイルで手に入る文献も増加していることから、後の時点で資料収集に行った方が入手困難な資料に絞って資料収集ができると考え、次年度に延期することにした。
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Research Products
(2 results)