2012 Fiscal Year Research-status Report
生物学・心理学がベルクソン哲学に与えた影響に関する文献的・実証的研究
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23720013
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Research Institution | Kagawa University |
Principal Investigator |
三宅 岳史 香川大学, 教育学部, 准教授 (10599244)
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Keywords | 進化論史 / 個体発生と個体性 / 生物発生原則 / 目的論と因果論 |
Research Abstract |
前年度までの研究で、ベルクソンが『創造的進化』で目的論や個体性について議論している背景には、ドリーシュやヴァイスマンさらにはヘッケルらの複雑な理論的関係が存在することを解明してきた。 ベルクソンが『創造的進化』でヴァイスマンの理論を留保付きで取り入れていることから、本年度はヴァイスマンの理論を進化の遺伝理論(系統発生)と個体発生の両面に焦点を合わせて、ヴァイスマンの文献に関する研究を行った。進化と個体発生というこの二つの側面を結びつける理論こそ、彼の生殖質説である。 結論から言うと、ベルクソンはこの理論のうち個体発生の説明(遺伝物質が個々の細胞に不均等に分配されて器官や細胞の分化が生じる)は取り入れていない。それはドリーシュによるウニの発生の実験によって困難を指摘されている。 一方で、ベルクソンは生殖質説による進化の説明、いわば「生殖質の連続 Die Continuitat des Keimplasmas」については、『創造的進化』の中で評価している。、『創造的進化』では、この理論は新ラマルク主義の獲得形質の遺伝への批判でも重要だが、同時にそれはドリーシュの目的性を個体性に限る議論への批判へと連動している。個体発生の局面ではベルクソンはヴァイスマンの機械論よりはドリーシュの動的な目的論の立場に近いが、ドリーシュが個体に目的性を限り、進化へ適用することは慎重なため、ヴァイスマンの生殖質説が進化理論として評価されるのであろうと思われる。 いわば、個体発生と進化の局面において、ヴァイスマンとドリーシュがそれぞれ説明に困難な点を補うようにして、エラン・ヴィタルの概念が形作られてきたのではないかということが分かってきた。このように研究以前は曖昧であった論点が段々と分節化されてきている。主にこの点が前年度からの研究実績の概要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
達成度については、本当は「(2)おおむね順調に進んでいる」と「(3)やや遅れている」の間くらいである。しかし、今後の進展を考えると、まだ詰め切れていない点があり、不安な要素が幾分か残るため、(2)よりは(3)に近く、区分を(3)にした。研究以前にたてた問題に関しては、研究が進むにつれて曖昧だった像がかなり明確に焦点化できているので、研究の方向性はよくわかってきた。この点では「(2)おおむね順調に進んでいる」と言ってよい。 しかし、この研究を発表や論文という成果にするためには、ヴァイスマン周辺の資料をもう少しよく当たらねばならない。また、獲得形質をめぐる議論、ベルクソンが参照しているブラウン・セカール周辺の議論については、追跡できていないし、ヴァイスマン以外の進化論者についての資料の収集も当初行おうとしていたほどまだ十分にできてはない。ルーが確立した発生力学とその内部の論争についての研究Oppenheimer, Essays in the history of embryology, 1967なども時間があれば読んでみたいし、ヴァイスマンはヘッケルの抽象的理論を批判したものの、反復説については批判的に継承している面もある点などは理興味深く、この側面も調べてみたいなど、この作業にはきりがない。時間をにらみながら、なるべく資料にあたり研究の厚みを出したいと考えている。 しかし、平成25年度以降の研究予定では、テーマが数学や心理学になり、これまでの生物学的問題と関連が薄いものになるため、ある程度の研究のまとまりがついたら、今年度の成果を発表や論文などの形にして、次年度の研究に取りかかる予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
ヴァイスマンとドリーシュあるいはヘッケルといった当時の科学的背景が持つ『創造的進化』への影響については、もう少し実証的・文献的な調査を行いたい面もある。しかし、これまでの研究を発散させて行くときりがないので、今年度の前半は、発散させる方向ではなく、ある程度収束させてまとめにかかりたい。 また今年度は、昨年度には行けなかったヨーロッパへの資料収集を行いたいと考えている。当初はパリの国立図書館(BNF)に行こうと考えていたが、考えてみればヴァイスマン、ルー、ヘッケルなどはいずれもドイツ人であり、また今年度扱う、リーマンやヘルバルト、精神物理学のフェヒナーやウェーバー、実験心理学のヴントなどはいずれもドイツ人である。したがって、資料収集はフランスではなくドイツに行くことも考えられる。前半の研究を進めながら方針を考えたい。 今年度後半は、リーマンの多様体論とベルクソンの『試論』の関係や、精神物理学などの研究に取り掛かりたい。しかし併せて、前年度と今年度の成果の発表などを準備もしなければならない。(研究進捗状況として「(3)やや遅れている」にしたのは、このように本年度の予定が忙しく、幾分かの不安があるためである。)
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
文献の収集と現在絶版になっているものに関しては複写代として使用する計画である。今年度は行くことのできなかった海外への資料収集(フランスもしくはドイツ)を次年度は行う予定である。
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Research Products
(2 results)