2012 Fiscal Year Annual Research Report
『壇経』の再発見写本を中心とした六祖慧能関係資料の文献学的思想史的再検討
Project/Area Number |
23720021
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
齋藤 智寛 東北大学, 文学研究科, 准教授 (10400201)
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Keywords | 祖堂集 / 夾山善会 / 華亭徳誠 / 偈頌 |
Research Abstract |
「仏法の埋没―夾山善会一門の宗風と法統意識―」において、唐代後期の禅僧である華亭徳誠、夾山善会、楽蒲元安師弟を取り上げ、禅宗史書『祖堂集』では三代の伝承がいかに記録されたかを検討し、以下のことを明らかにした。 『祖堂集』によれば、華亭以下三代の禅師たちが課題としたのは有無を超えた境地の体得とその言語表現であり、しかも悟りとその言語化の双方を成し遂げる弟子は少なく、つねに仏法の断絶が危機として意識されていた。かかる風潮のもと、言語の束縛への反省→無言の境地の体認→体験の新たな言語化というプロセスが理想の開悟とされ、祖師の開悟説話として結晶していたのである。特に華亭章と夾山章を対照すれば、前者に見える夾山開悟の因縁が後者の伝える夾山自身の回想を元に再編集された記事であり、しかも問答の重点が開悟体験そのものから、その言語化へと変化していることが知られる。 注意しなければならないのは、夾山一門はその華麗な偈頌によって後世に知られたのであり、『祖堂集』もすでに彼らの偈頌や修辞をこらした問答を多く収録していることである。彼らにおいては、偈頌作成の風潮こそが言語活動への反省を促進したと思われる。同じく偈頌の名手として知られる香厳智閑の開悟も、文字による自縄自縛から言語を超えた悟りの体験、そしてその体験を改めて偈として言語化するという構造を持っている。 本論文であつかった開悟という本来個人的な体験に属する仏法をいかに伝承するかという問題は、『壇経』に説かれる頓悟説や南北宗の別、神会派の位置づけ、あるいは西天二十八祖説といった問題と関連しつつ、より深化した形での言説を検討したことになる。また、『壇経』には神秀との偈の応酬に始まって数多くの偈頌が収録されるが、詩偈による仏法の伝達という夾山一門の宗風は、『壇経』以来の風潮が発展したものとも考えられるのである。
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Research Products
(1 results)