2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23720026
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
生野 昌範 大阪大学, 文学研究科, 助教 (60512928)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
Keywords | 仏教学 / 律 / 受戒儀礼 / ギルギット / 写本 / テキスト再校訂 |
Research Abstract |
本研究は、仏教の受戒儀礼(志願者を仏教の出家者として承認し、仏教教団に入団させる儀礼)に関するテキストの不備を補完するために写本から再校訂を行なった上で、受戒儀礼を記述している三本のテキストを比較して考察することにより古代インドにおける受戒儀礼の実像を構築することを目的とする。 本年度は、まずギルギット写本の内に含まれている『カルマヴァーチャナー』に関して、現在入手可能な次の3資料、(1) 出版されている写本のファクシミリ版 [Gilgit Buddhist Manuscripts, Revised and Enlarged Compact Facsimile Edition, ed. Raghu Vira and Lokesh Chandra, Delhi 1995]、(2) 立正大学法華経文化研究所(編)『法華経関係稀覯資料集成データベース』(立正大学法華経文化研究所、2003)、(3) ゲッティンゲン大学に保管されている Xc 136 という記号を付されたネガ写真を用いて、『カルマヴァーチャナー』の再校訂を行なった。そしてその後に、新たに作成した再校訂テキストに基づいて『カルマヴァーチャナー』の読解研究を行なった。 『カルマヴァーチャナー』と同じく男性の志願者のための受戒儀礼を記述している文献として『ウパサムパダー・ジュニャプティ』があるが、その『ウパサムパダー・ジュニャプティ』の再校訂テキストが2011年6月22日付で出版された。そこで、出版されたその『ウパサムパダー・ジュニャプティ』の再校訂テキストを用いて読解研究を行なった。 以上の通り、本年度は『カルマヴァーチャナー』と『ウパサムパダー・ジュニャプティ』が記述する男性の志願者のための受戒儀礼に関して個別に調査・分析を行なった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、古代インド仏教の受戒儀礼を研究対象として、文献学的アプローチに基づき儀礼の式次第、儀礼を行なうのに必要な参加メンバー、儀礼を受けることのできる志願者と儀礼を受けることのできない志願者の条件などを考察することにより古代インドにおける受戒儀礼の実像を構築することである。 そのために、本年度では、男性の志願者のための受戒儀礼を記述している『カルマヴァーチャナー』と『ウパサムパダー・ジュニャプティ』とに関して個別の読解研究を行なった。これにより、次年度以降に行なう男性の志願者のための受戒儀礼と女性の志願者のための受戒儀礼との総合的な比較研究に対する基礎を確立した。 また、本研究の具体的な目的の内の一つとして、受戒儀礼に関する現在の基礎的資料に存する不備を補完し、国内外の研究が今後利用するに価する新たな基礎的資料を確立し提供することを掲げている。その目的を達成するために、『カルマヴァーチャナー』の再校訂を現在入手可能な三つの写本資料を用いて行なった。今後研究を進めるうちに、改善すべき点は生じてくると予想されうるが、これにより本研究の具体的な目的の内の一つである基礎的資料の確立のための土台作りを行なった。 以上の通り、当初の予定通り、本年度は男性の志願者のための受戒儀礼を記述する二つの文献に関する個別の読解研究を行ない、次年度以降に行なう男性の志願者のための受戒儀礼と女性の志願者のための受戒儀礼との総合的な比較研究への基礎を確立することを達成した。
|
Strategy for Future Research Activity |
まず、『カルマヴァーチャナー』と『ウパサムパダー・ジュニャプティ』に関して今年度に個別に行なった読解に基づいたうえで、両文献を用いて包括的・総合的に男性の志願者のための受戒儀礼を考察する。なお、本研究の柱の一つである『カルマヴァーチャナー』の再校訂テキストに関しては、訂正・改善を随時に行なう。 さらに、女性の志願者のための受戒儀礼に関して記述している『ビクシュニー・カルマヴァーチャナー』を読解し、この文献の記述する女性の志願者のための受戒儀礼を正確に理解するように努める。 その上で、『カルマヴァーチャナー』と『ウパサムパダー・ジュニャプティ』の記述する男性の志願者のための受戒儀礼と『ビクシュニー・カルマヴァーチャナー』が記述する女性の志願者のための受戒儀礼とを調査・分析して総合的な検討を行なう。その際に、男性の志願者のための受戒儀礼と女性の志願者のための受戒儀礼との共通点・相違点には十分に注意を払いつつ考察を行なうが、相違点に関しては男性と女性との性差がかかわることが十分予想されうるし、また仏教における女性観を反映する可能性も十分に考えられうるので、それらの点にも注意を払いつつ考察を行なう。 以上の通り、写本に基づいた『カルマヴァーチャナー』の基礎的資料を確立するとともに、古代インドにおける受戒儀礼の式次第、志願者に求められる仏教出家者としてのあるべき姿、受容される志願者と受容されない志願者の条件などを手掛かりとして仏教の社会に対する関わり方などを検討しつつ、男性の志願者のための受戒儀礼と女性の志願者のための受戒儀礼を総合的に考察し、受戒儀礼の実像を構築する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究を進めて行く上で必要に応じて研究費を執行したために当初の見込み額と執行額は異なったが、研究計画に変更はなく、前年度の研究費の未使用額も含めて、当初に予定していた通りの計画を進めていく。 具体的には、暫定版として作成し終えている『カルマヴァーチャナー』の再校訂テキストをより正確なものにするために、8月7日~27日の21日間ドイツのゲッティンゲンに滞在し、写本研究の第一人者であるゲッティンゲン大学の Klaus Wille 博士と協議を行なうための外国旅費・滞在費として研究費を使用する。さらに、第63回日本印度学仏教学会(2012年6月30日、7月1日、東京、鶴見大学)において本研究に関連する写本に関する研究発表を行なうための国内旅費として使用する。また、Wille 博士をはじめとして識者から研究方法の検討にあたって助言、及び専門的知識の提供を受けるための費用を謝金として使用する。 古代インドのブラーフミー文字によって書かれた写本を研究対象とし、さらに古代インド仏教の受戒儀礼の実像の解明を目指す本研究を遂行するにあたって必要となるブラーフミー文字写本関係の図書、及びインド仏教関係の図書を、必要に応じて随時購入するための設備備品費として研究費を使用する。
|