2011 Fiscal Year Research-status Report
翻訳の思想とその現代性:20世紀フランス・ドイツにおける思弁的翻訳論の横断的研究
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23720038
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
西山 達也 東京大学, 総合文化研究科, 特任研究員 (40599916)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | 翻訳の思想 / 国際情報交流 / フランス / ドイツ / ハイデガー / レヴィナス / ブランショ |
Research Abstract |
本年度は20世紀フランス・ドイツにおける翻訳の思想がいかにして萌芽したかを精査したが、この作業の前提として、哲学が翻訳の問題にかかわる際に、どのような時間性と歴史性の意識をともなっていたかを考察した。一方で翻訳の問い、他方で時間性と歴史性の問いの交差点を考えるべく、第一に取り組んだのは、20世紀の歴史哲学の潮流(とりわけマルティン・ハイデガー)における翻訳の思想をめぐる研究である。この研究の成果として、2011年11月14日にフランス・ストラスブール大学教授ジェラール・ベンスーサン氏を囲んでワークショップ「歴史哲学とメシアニズム」を開催した。このワークショップでは、西南学院大学森田團准教授の協力により、フランス語・ドイツ語で発表を行い、多言語での討論を実現することができた。 本年度の成果としては、第二に、「リズム」概念の翻訳をめぐる思想に関して研究・発表を遂行できた。「リズム」概念の翻訳は、現代哲学における時間性や身体と精神の関係、個体形成、そして実存概念をめぐる諸思想を反映するものであり、この意味で、本研究では、文献学・語源学の展開から照らして20世紀の哲学が展開したリズムをめぐる思想の淵源を探査した。この成果は、以下のかたちで世に問われた。・招待講演「怖れと憐みのリズム:ハイデガーとブランショ」(2011年6月、明治大学人文科学研究所総合研究『模倣と創造』第1回定例会)・招待講演「リズムと実存:レヴィナスの『パイドロス』読解」(シンポジウム「実存の悲劇的根拠」、科学研究費補助金基盤研究C「古典の歪曲」の一環として開催:研究代表古澤ゆう子教授)・研究発表「対話としてのリズム:レヴィナスとブランショ」(日仏哲学会 2011年秋季研究大会)
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
第一年次よりフランス・ストラスブール大学教授ジェラール・ベンスーサン氏を囲んで国際会議を開催することができ、多大な成果が得られた。この会議では、ベンスーサン教授および研究代表者はフランス語で、西南学院大学准教授森田團氏はドイツ語で発表を行い、相互に日本語・ドイツ語・フランス語の通訳を行った。外国語での哲学会議の開催にとどまらず、こうした多言語での討論の実現には様々な研究者・補助者の協力が不可欠であり、また精密な知識と情報交換が必要とされる。しかしながら、現在の我が国の人文学の研究状況では、各分野の連携・共同研究のノウハウの不足により、この種の交流をおこなうことが次第に困難となっている。その点で、今回の国際会議の開催を通じて一定の実践的な経験と知見を確保することができ、またこの経験を多くの研究者と共有できたことは大きな成果であると思われる。 本年度は、また、招待講演・学会発表をおこなうことで研究結果を世に問うことができた。これらの成果は当初の計画以上の進展である。ただし、1年次であるため図書・雑誌論文としての研究発表をおこなうことができなかった。このため総合して「おおむね順調に進展している」と自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
第1年次に開始した、「思考にとって翻訳がいかなる意味を持つか」をめぐる原理的な研究を継続し、これを雑誌・図書にて発表する。また、第2年次には、20世紀前半から中葉までのフランス・ドイツの翻訳の思想を調査し、第3年次には20世紀中葉以後の展開のプロセスを検証する。 他方で、本研究は、「翻訳」というテーマを軸に、哲学固有の学術的方法論と他の学問領域の方法論との融合を試みており、次年度以降はこの様な観点からの研究をよりいっそう推進する予定である。第2年次には文学研究者の多数参加するバタイユ・ブランショ研究会にて、前年度より継続中の「リズム」をめぐる研究の成果を発表する予定である。また、東アジアにおける思想翻訳の問題をめぐって研究をおこなっている海外の研究者と交流を推進し、さらには、人文系分野の枠を超え、理系分野における「翻訳」の問題をも考察する可能性も模索したい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初の計画通り、第2年次には、20世紀前半から中葉までのフランス・ドイツの翻訳の思想を調査し、これに必要な書籍(古典文献学・言語学・翻訳学・ハイデガー研究関係)およびパソコンソフトを購入する。研究交流のためアメリカ合衆国に渡航し、アレクサンダー・ツァールテン氏(ハーバード大学准教授)と情報交換をおこなう予定である。
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