2012 Fiscal Year Research-status Report
ヴィヴァリーニ工房とその受容―15世紀ヴェネツィアにおける美術と信心
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23720047
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
佐々木 千佳 東北大学, 文学研究科, 専門研究員 (50400198)
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Keywords | 画家工房 / ヴェネツィア / ヴィヴァリーニ |
Research Abstract |
本研究は、ベッリーニ工房とヴィヴァリーニ工房という15世紀のヴェネツィアにおける二大画家工房を研究対象に、制作の実態を主題分類の上で分析するという目的から開始された。ヴェネツィア美術という偉大な潮流を築いた画家工房の制作実態については、これまでの研究において十分に解明されているとはいえない。とくに、ヴィヴァリーニ工房では、家族を主体にした工房体制のもと祭壇画と小型の板絵を内外の注文主に向けて制作することで、当時の絵画需要に多大な貢献をしていた。このことをふまえ、本研究では、地元の聖堂や信心会によって注文された板絵の主題に関する調査を通じ、画家の様式を観察すると同時に工房の実態を明らかにしようとした。とくに、各々の主題がどのような過程を経て図案化されたのかという点に注目し、そこに工房が果たした役割と図像と社会的背景との関係を考察した。 以上をふまえ、今年度は以下の二点の方法にしたがって作品分析を行った。 1.前年度におこなった、主題別に整理した祭壇画と小規模板絵のデータ分析をふまえ、〈幼児キリストを礼拝する聖母〉〈ピエタ〉の主題を中心に、図像内容と宗教的機能の関係について体系的に解明する。 2.上記主題について、ヴェネツィアで信仰を集めたイコン《ニコペイアの聖母》との関連から図像の派生状況について調査し、多様な図像形成の過程と思想背景を浮き彫りにする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の研究目的を達成するために、以下の方法を海外調査を中心に順調に進めることができた。 (1)基礎データの収集、(2)ヴェネツィアを中心とする各聖堂の祭壇画や礼拝堂設置の小板絵、各所に保管される絵画作品の現地調査、(3)同地に現存する聖堂関連の一次史料や典礼書の読解による同時代の宗教思想・制作背景と主題の関連の分析 とくに(3)の個別の項目についての基礎調査および事例研究においては、イコンに端を発する当時の聖母信仰と図像の関連を分析し、同時代の社会背景から導き出される宗教的機能を解明するという前年度から進められている考察をさらに深めることができた。また、画像資料と史料読解を通じて、バルトロメオおよびアルヴィーゼ・ヴィヴァリーニ、またその弟子たちが描いた他主題作品の制作と受容環境を明らかにすることによって、当時の社会的コンテクストから導き出される宗教的意味に応じて注文が行われていた制作実態の一端を解明することができた。このことから、ベッリーニおよびヴィヴァリーニによる多くの類型からの派生作品が制作され、それぞれが独自の様式と設置場所や機能に応じた主題との関係が注文主にも理解され、また受容されていたという結論が導き出された。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)基礎データの収集と整理:前年度に引き続き、作品のデータを収集しながら、データベース化のための整理を進める。(2)現地調査:前年度に引き続き、現地調査を進める。最終年度にあたる本年の現地調査は、ヴェネツィアの聖堂を中心に14日程度実施する。今年度の調査予定項目は以下の通り。1.バルトロメオ・ヴィヴァリーニの1470年代以降の祭壇画および各板絵作品、2.アルヴィーゼ・ヴィヴァリーニ、その弟子であるムラーノ派画家たちによる各作品(アントニオ・ダ・ネグロポンテ)、3.ジョヴァンニ・ベッリーニの追随者たちによる2と同主題の各作品 (3)一次史料や典礼書の調査と読解:前年度に引き続き、以下に述べる事例研究と並行して、ヴェネツィア国立サン・マルコ図書館、市立図書館、国立古文書館にて聖堂に関する一次史料と典礼書を調査し、読解に努める。(4)事例研究:c.〈ピエタ〉主題と図像系譜の調査、史料読解による宗教的機能の解明:贖宥概念と密接に結び付く単独の〈ピエタ〉は、ヴェネツィアを中心に北イタリアに広まり、ヴィヴァリーニ工房で多数制作された。〈幼児キリストを礼拝する聖母〉との関連から、この主題が画面において聖母図像と結びつき、聖母が礼拝する姿で表わされるようになった背景について、1475年頃から活発に提唱されるようになる都市ヴェネツィア「聖化」の思想、および祈念像としての性格から分析する。d.〈幼児キリストを礼拝する聖母〉と同時代の聖母信仰との関係:コンスタンティノープルに由来し、中世以降篤い信仰を集めていたイコン《ニコペイアの聖母》(ヴェネツィア、サン・マルコ聖堂)と関わる、ヴェネツィアの聖母信仰との思想的結びつきをbの成果も踏まえ解明する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額は、今年度の計画を効率的に推進したことに伴い発生した未使用額であり、平成25年度請求額とあわせ、次年度に計画している海外調査を中心に、以下の遂行に使用する予定である。 (1)海外調査における基礎データの収集 (2)ヴェネツィアを中心とする各聖堂の祭壇画および礼拝堂設置の小板絵、各所に所蔵されている絵画作品の現地調査 (3)同地に現存する聖堂関連の一次史料の読解による同時代の宗教思想および制作背景と主題の関連性についての分析 期間全体を通じて、作品調査と関連基礎資料の収集を同時に進めながら、写真撮影や古文書の読解に際し、適時同地の研究者に協力を依頼しながら研究を遂行する。オリジナルの状態が失われている場合も含め、祭壇画と礼拝堂の再構成図等に関する後世の素描・版画等も借用しながら効率的に調査を進める。この間の研究成果を踏まえて国内での学会発表を行う予定であるため、その旅費および、論文・報告書の形で内外に発信してゆく。さらに、収集した図像データとその機能について成果をまとめ、主題の系譜をデータベース化するための費用に充てる。
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