2011 Fiscal Year Research-status Report
20世紀初頭における日本陶芸技術の西漸に関する研究
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23720055
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
前崎 信也 立命館大学, 立命館グローバル・イノベーション研究機構, ポストドクトラルフェロー (20569826)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 美術史 / 芸術諸学 / セラミックス / 近代陶磁史 / 国際情報交流 / イギリス / 民芸運動 |
Research Abstract |
予定した23年度の研究計画に関連する実績は以下の通り。(1) 松林靏之助関連資料の翻刻:松林靏之助が英国に伝えた窯業技術の基礎となった京都陶磁器試験場における伝習生として学んだ知識の詳細を明らかにするため、同試験場在籍時の日記(大正5年4月1日~5月11日、大正6年4月16日~12月17日)、卒業論文『九州地方陶業見学記』の翻刻を終了。松林靏之助の英国での活動、陶芸家との関係を明らかにするため、英国滞在中から帰国後の6年間(1923年~1931年)に受け取った英文の書簡等(161件)の翻刻を終了。(2) 松林靏之助関連作品のデジタル化:23年度は作品所蔵機関の都合で実施できなかったため、24年度に実施予定。(3) 松林靏之助が英国から帰国した後に活動した佐賀県西松浦郡有田町の調査:2011年11月20日~27日にかけて、松林靏之助に関連する窯元、窯跡、学校等の調査を実施した。松林靏之助の写真アルバムに含まれる場所の特定を行った。2012年3月4日~15日にかけて松林靏之助が活動した九州の諸窯業地の調査を実施した。(4) 研究発表:予定していた美術史学会の『美術史』への投稿は24年度を予定している。以下は刊行済み、及び刊行決定済み論文である。ケンブリッジ学術出版から2011年12月に出版された単行本East & West Cross-Cultural Encounterの第8章に本研究の成果論文が掲載された。英国陶磁協会発行のTransactions of English Ceramic Society に を投稿し採録決定(2012年秋刊行予定)。2011年10月14日、オックスフォード大学アシュモリアン美術館において招待講演を行った。その他、国内で2件の研究発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
23年度に予定した研究計画はおおむね達成することができた。特に上記成果の概要で挙げた、23年度研究計画の(3)にあたる、松林靏之助が活動した九州西松浦郡有田町他、松林の調査報告書に名前の挙がる各地の窯業地への調査をほぼ終えることができた。本調査の結果については24年度末に研究報告として出版のため準備を進めている。 研究計画(1)の翻刻作業については英語資料の翻刻は、主要な資料の大部分を終了することができた。この翻刻作業で得ることのできた翻刻文とそこから得られた研究成果は、イギリスの英国陶磁協会の学会誌に投稿し採用された。この論文は24年度秋に出版予定であり、この点については既に研究予定を達成した。 研究計画(1)の邦語資料の翻刻は予定通り進まなかった。担当したアルバイトの作業スピードが上がらず、アルバイト費用としてあてた予算の執行が進まなかった。この点については24年度に実施予定である。 研究計画(2)として本年度予定していた朝日焼資料館所蔵の松林靏之助の作品のデジタル化は研究代表者の予定と所蔵機関の予定とがあわず実施できなかったため、24年度に実施する。 上記の本年度の研究の実績の最後(4)に挙げたように、本研究に関連する成果発表としては、ケンブリッジ学術出版から発売された単行本の6章に本研究の内容が掲載され既に刊行されている。また、1928年創の英国陶磁協会の学会誌に論文が掲載されるのは日本人初である。研究発表としては、オックスフォード大学付属アシュモリアン美術館で本研究の概要についての発表を行った。その他国内でも2件の研究発表を行い、研究成果の発表は極めて順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
23年度の研究計画はおおむね順調に進めることが出来た。24年度も予定の計画通りの遂行を目的とする。24年度の研究計画は以下である。 (1)初年度にまとめた翻刻資料、九州の調査結果等の整理・研究:23年度の翻刻作業の結果、松林靏之助が日本の製陶技術の輸出に果たした役割が明らかとなってきた。24年度も引き続き翻刻作業を続ける。 (2) 朝日焼資料館蔵松林靏之助関連資料のイメージデータベース化:整理した資料をもとにイメージ・データベースを構築し、立命館大学アート・リサーチセンターのホームページ上で公開する。この点に関しては、調査研究に活用できるイメージ・データベースの研究とその構築、データベースのウェブ上での公開(資料の所蔵者と十分な打ち合わせをし、公開は許可を得たものに限定)を行う。作成日時が特定できる資料が多いため、タイムラインを用いたデータベースの構築を視野に入れる。 (3)研究結果をまとめた論文執筆・投稿:24年6月末締め切りの『美術史』に論文投稿を予定している。この他には国内誌『民藝』、『東洋陶磁』などに研究成果を報告する。 (4)松林靏之助の事跡をまとめた単行本の出版にむけた原稿執筆。 (5)国際情報交流:23年度の活動の成果として、松林靏之助が1923年~24年に活動した、英国リーチ・ポタリ―において、朝日焼資料館蔵の松林関連資料の展覧会を計画が持ち上がっている。開催は25年度を予定しているが、本年度に展覧会実現に向けた調整を進める。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
23年度の執行予定の研究費に未使用額が生じた。物品費では当初購入予定していた撮影用のカメラの購入をとりやめたため、物品費にあたる研究費に未使用額が生じた。人件費・謝金では、本年度の実績でも述べたが、アルバイトの作業が予定通りに進まず未使用額が生じた。未使用となった研究費については、24年度にアルバイトの作業を進めるとともに、資料のデジタル・アーカイブ化に係る謝金に用いて研究成果公開を進めることに用いる。また、23年度は旅費が予定以上にかかり、24年度も旅費に係る費用が事前の予定よりも増える予定であるため、物品購入費と人件費・謝金から一部を不足する旅費にあてる。 24年度の研究費の使用計画は以下である。 物品費は書籍購入、消耗品購入に充てる。旅費は、九州調査のための旅費、朝日焼資料館までの旅費、東京での資料収集のための旅費に充てる。人件費・謝金は、23年度から引き続き資料翻刻のアルバイト費用に用いるほかに、資料のイメージ・データベース化の費用にも用いる。その他の費用としては印刷費等である。
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