2011 Fiscal Year Research-status Report
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23720056
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
吉田 寛 立命館大学, 先端総合学術研究科, 准教授 (40431879)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 感性学 / 美学 / ゲーム / デザイン |
Research Abstract |
三年計画の初年度となる平成23年度には、哲学・美学史的観点に基づき、認知科学や心理学、人間工学の研究成果なども参照しながら、五感の序列と編成をめぐる哲学的・思想的課題のアウトラインを構築した。 まず本研究が基本文献とするヴィンゲ『五感』、ロウ『ブルジョワ的知覚の歴史』およびユッテ『諸感覚の歴史』の読解を完了し、五感の編成と序列についての俯瞰的見通しを得た。続いて次年度以降に行う予定の、より考察範囲を限定した研究の前提として、五感の編成と秩序をめぐる主たる問題点や争点を明らかにするべく、より具体的な感性文化についての考察も行った。 とくに現在きわめてアクチュアルな領域といえるバリアフリーとユニヴァーサル・デザインに注目し、その中で五感の序列と編成の問題がどのように出現しているのかを考察した。その成果は「ユニヴァーサル・デザインはなぜそう呼ばれるか」という論文として『生存学』に掲載されている。また、高齢化社会の到来がわれわれの感性的文化にどのような影響を及ぼすのか、という問題を視覚/聴覚/触覚の複合文化であるビデオゲームに即して検討し、エイジングと感性メディアに関する知見を得た。これについても同じく『生存学』に「〈老化〉するゲーム文化」という共同討議の成果が掲載されている。さらにビデオゲームの画面やインターフェイスを記号学の手法を用いて分析し、その独特の錯覚(イリュージョン)の立ち現れ方を解明した。その成果は日本記号学会第31回大会「ゲーム化する世界」で口頭発表された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画していた通りの文献調査および事例研究が達成できた。前者は主として、美学史的研究である本研究課題が、古代から現代に至る歴史の大きなアウトラインを把握し、その中で五感をめぐる重要な議論やパラダイムの転換点を見定めるための先行研究調査である。その中で、十七世紀から十九世紀にかけてのヨーロッパが考察すべき中心的時代として浮かび上がってきた。そこでは哲学(形而上学)と自然科学が一体の営みであり、五感の研究や考察もその中で行われており、従って本研究課題も、医学および生理学上の諸知見──例えば視覚障害者の開眼手術や、色彩や音響の知覚といった──をも、哲学的・美学的問題として取り上げ、五感のシステムをめぐる思想史の中に組み込まなくてはならないことが確認された。また後者の事例研究を通じて、本研究課題が最終的に明らかにしようとするバリアフリー・デザインやインターフェイス設計における五感の役割を検証する糸口が見つかった。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度以降も当初の研究計画通りに推進される。すなわち、五感の編成と序列をめぐる二つの歴史的転換点と考えられる1700年頃と1770年頃に焦点を当て、前者についてはいわゆる「モリノー問題」を中心に、また後者については言語哲学の新たな動向を中心に、哲学史的考察を行う。前者に関しては視覚心理学者モーガンの『モリノー問題』(1977年)および医学史家デジェナーの『モリノー問題』(1996年)といった先行研究の吟味を行いつつ、また後者に関してはヘルダーの言語哲学についての諸研究を参照しつつ、同時代の一次史料を読解することになる。次年度の研究では、初年度に力点を置いた歴史の「縦」の関係に代わり、「横」の関係が重要になる。すなわち一つの時代・文化の中で、五感に関するどのような学説や知見が存在し、それがどのようにその時代・文化の五感の編成と序列に結びついたかを、哲学や美学のみならず、神学、自然科学、人間学、医学といった様々な領域に即して検討することになる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究費は、当初計画・申請していた通りの金額が変更無く使用される予定である。それらは具体的には、海外(ヨーロッパを予定)での資料調査を行うための外国旅費の他、研究会や資料調査のための国内旅費、実験心理学や医学史の専門家から専門的知識の供与を受けるための謝金、および調査に携行するためのモバイル型パーソナル・コンピュータを購入するための設備備品費、哲学・美学関係図書や医学・生理学関係図書を購入するための消耗品費などである。
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Research Products
(6 results)