2012 Fiscal Year Research-status Report
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23720056
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
吉田 寛 立命館大学, 先端総合学術研究科, 准教授 (40431879)
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Keywords | 感性学 / 美学 / ビデオゲーム / デザイン |
Research Abstract |
三年計画の二年目となる平成24年度には、前年度に構築した五感の序列と編成をめぐる哲学的・思想的アウトラインを踏まえて、より問題を絞り込んだかたちでの歴史的・文化的考察を行った。 歴史的な軸としては、とくに聴覚文化に焦点を当てて調査研究を行い、その成果を『〈音楽の国ドイツ〉の神話とその起源──ルネサンスから十八世紀』という単著として公表した。 いっぽう、現代においてとりわけ突出した感性文化を作りだしているビデオゲーム(デジタルゲーム)に注目し、その中で五感の序列と編成の問題がどのように現れているのかを考察した。感性研究とビデオゲームの関わりを含め、その成果の概略は「なぜいまビデオゲーム研究なのか──グローバリゼーションと感覚変容の観点から」という論文として『立命館言語文化研究』に掲載されている。またビデオゲームについては記号学の理論を感性学に援用した研究も行い、その成果は「ビデオゲームの記号論的分析──〈スクリーンの二重化〉をめぐって」「ゲーム研究のこれまでとこれから──感性学者の視点から」という二本の論文として日本記号学会の機関誌「セミオトポス」の次号『ゲーム化する世界』に掲載予定である。 また感性や五感が現代日本の教育現場でどのように扱われているかについて、とくにミュージアム(美術館を含む)との関連で検討した座談会「オルタナティブな教育の場としての美術館」(服部正、島田康寛、竹中悠美、吉田寛、鹿島萌子)を行い、その概要が『生存学』で報告された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画していた通りの文献調査および事例研究が達成できた。五感の編成と序列をめぐっては近年、認知科学やインターフェイス研究の分野での研究蓄積が著しく、美学史的研究を主軸とする本研究課題にとっても参照できる理論がそれらの分野で豊富に存在することが、文献調査によって確認できた。また事例研究では、ミュージアムやビデオゲームといった現代の感性文化を代表するものを視野に収めることができたことが、今年度の大きな成果である。それを通じて、美学・哲学の分野と、教育や産業といったより実践的な分野を「感性」をキーワードとして結びつける方法が構想できた。どちらも次年度に本研究課題をまとめ上げる際に必要な知見と視点になるだろうと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度も当初の研究計画通りに推進される。すなわち、これまで二年間で得られた研究成果を踏まえて、現代における五感のシステムが過去のそれとどのような連続性や断絶を持つのかを明らかにし、断絶が見られる場合には、その背景や理由を検討する。その際、とくに鍵を握ると考えられるのが人間工学や工業デザインといった分野であり、それらの分野で五感に関してどのような思想や哲学が基本理念として共有されているのかを調査し、それを思想史的観点から評価する。五感のシステムや序列のうちで、時代を超えてある程度「普遍的」な部分と、それとは反対に時代や文化による制約や拘束を強く受ける部分の違いや境界を見極めることが、本研究課題の最終的な目標である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究費は、当初計画・申請していた通りの金額が変更無く使用される予定である。それらは具体的には、各種調査や研究の打ち合わせ、研究発表のための旅費(いずれも国内)、感性工学やバリアフリー関連文献を購入するための消耗品費、工学やデザインの専門家から専門的知識の供与を受けるための謝金などである。
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