2011 Fiscal Year Research-status Report
中国・五代十国時代(十世紀)の金属工芸に関する基礎調査研究
Project/Area Number |
23720066
|
Research Institution | The Museum Yamatobunkakan |
Principal Investigator |
瀧 朝子 (財)大和文華館, その他部局等, 研究員 (90416264)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
|
Keywords | 五代十国 / 呉越国 / 金属工芸 / 線刻鏡 / 美術史学 / 国際情報交換 / 中国 / 浙江省 |
Research Abstract |
本研究の中国五代十国時代(十世紀)の金属工芸に関する基礎調査研究を目的とし、平成23年度は文献調査と浙江省を中心とした作品調査及び実地調査を行った。具体的には、文献調査では基礎史料の収集及び『中国歴代石刻史料匯編』など史料研究に必要な資料を充実させて金工品制作やその需要・受容に関する記述を調べる作業を開始、継続して行っている。また、作品調査では浙江省博物館において、五代十国時代の金工品のうち、線刻鏡(鏡像)と阿育王塔(銭弘俶塔)の調査を行った。線刻鏡は現在知られている作例の中で浙江省内の公的機関に所蔵されているもののほとんどを観察調査し、図像の描き起こしを行い、図像研究のための資料を作成した。これらの描き起こし図は浙江省博物館に提供し、2011年9~12月に浙江省博物館で開催された呉越国の文物を集めた展覧会『呉越勝覧』の展示及び展覧会図録にも使用されるなど、浙江省博物館の研究員と研究上の交流を深めることができた。さらに、途中経過ではあるがこれまでの研究成果を踏まえ、京都清凉寺蔵木造釈迦如来立像を胎内納入品の線刻鏡から意義付けを行い、本展覧会に伴う国際学術討論会(シンポジウム)にて発表を行った。阿育王塔に関しては、文献史料を中心に進めてきた研究を進めてきたが、浙江省博物館において作品調査を行うことができたため、その成果を整理し、これを踏まえて今後考察を深めていく予定である。その他の金工品調査では浙江省普陀山の普陀山仏教博物館にて展示を観覧した。また、同じく浙江省を中心として十世紀に呉越国の代表的な生産品であった越窯青磁は金工品と器形及び文様、装飾技法において深い関わりがあるため、浙江省北部の慈渓市、上虞市、寧波市の博物館及び窯跡を回り、越窯青磁の精品を調査するとともに、窯道具や焼成技法など制作に関わる実地調査を行った。本年度は史料収集に努めるとともに、作品調査を進めた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は当初の計画の通り、中国・浙江省を中心に実地調査及び作品調査を進め、基本的な史料など文献資料収集を行った。研究目的の中で大きな比重を占める呉越国の文物を一堂に集める展覧会が中国・浙江省博物館にて開催されたため(2011年10-12月「呉越勝覧―唐宋間之東南楽国」展)、まとまって作品を見る機会に恵まれたこと、これに伴って集められた金属工芸品の一部を実見調査できたことは本研究にとって非常に有意義であった。さらに、展覧会に伴う国際学術討論会へ参加したことで中国や韓国、台湾の研究者と交流を深めることにもつなげられた。これにより、現段階において必要であり、次年度以降の研究につながる重要な情報を交換することができた。またシンポジウムの内容は本研究に大きな示唆を与える内容を多く含んでおり、また調査の方向性や新しい可能性を研究者に示唆するものであり、それに従って、本研究目的に沿って次年度以降の研究調査をさらに充実させる方向へと内容を展開させる予定である。以上の状況により、現在は順調に進展していると考える。
|
Strategy for Future Research Activity |
五代十国時代の金属工芸品について、今後も中国を中心として、作品を所蔵する欧米と韓国のも含めて調査を行っていくことは当初の計画の通りである。さらに、今年度の調査により、当初予定していた研究調査範囲よりも広範囲の調査が必要であることに気付かされた。具体的にはシンガポール、インドネシア、フィリピンといった東南アジアであり、現在これらの地域から発見されている沈没船から同時代の陶磁器などが大量に見つかっている現状から、研究対象としていた時代の金属工芸品が中国からこれらの地域にもたらされた可能性を想定する必要を感じた。さらに、これらの地域の文物は現在研究が進んでいるとは言い難いため、史料などの文献収集及び作品の調査を行う必要を感じた。本研究の性格である基礎研究としての充実度を図るために、当初の予定よりも調査範囲を拡大し、これらの地域の文物把握に努めながら、今後もデータ及びリストの充実を図り、まとめていく予定である。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は浙江省のみではなく、五代十国時代の国々が興亡した地域である浙江省周辺の江蘇省や安徽省なども視野に入れ、主に博物館や考古文物所などに所蔵されている金属工芸品を把握してリストを作成するために、現地に赴き、これらの資料収集と作品の調査を行っていく予定である。その他、欧米など当初予定していた範囲の調査を重点的に進めながら、本年度の調査によって新たに調査範囲としての重要性が認められる東南アジア(シンガポール、インドネシア、フィリピン)における作品及び史料について資料収集を進め、次年度以降、これらの調査準備及び実地調査を可能な限り行っていきたいと考えている。また実地調査と平行して、史料の読み込みを進め、内容を整理する作業を行う。次年度の研究は以上のような内容である。本研究は基礎調査を目的とし、資料収集と実地の調査によって得られる成果が重要となるため、文献資料費と調査旅行費が研究費使用の主となる。
|