2012 Fiscal Year Research-status Report
中国・五代十国時代(十世紀)の金属工芸に関する基礎調査研究
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23720066
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Research Institution | The Museum Yamatobunkakan |
Principal Investigator |
瀧 朝子 公益財団法人大和文華館, その他部局等, その他 (90416264)
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Keywords | 五代十国時代 / 呉越国 / 金属工芸 / 線刻鏡 / 美術史学 / 国際情報交換 / 中国 / 浙江省 |
Research Abstract |
本研究の目的である中国五代十国時代(10世紀)の金属工芸に関する基礎調査研究の為に 、平成24年度は国内及び中国を中心に五代十国時代の工芸と関連する唐~北宋時代の工芸品までを含めて対象とし、前年度より継続して文献資料収集及び作品調査を行った。 美術館・博物館所蔵の作品に関しては、展覧会における作品の熟覧も含めて、韓国・国立中央博物館や東国大学校博物館、梨花女子大学博物館など、中国では浙江省博物館、蘇州博物館、上海博物館などにおいて調査を行い、この機会に現地の研究者との研究上の交流及び情報交換を行った。これは継続して中国で作品調査を行う準備でもあり、2013年4月に浙江省・江蘇省にて既に実施した。 本年度の研究成果の発表では、2012年9月に神戸大学文学部主催『敦煌・絲綢之路国際研討会』にて「敦煌及び周辺石窟における水月観音図の展開について―人物群表現に注目して―」と題する口頭発表を行い、報告書として活字化した(2013年3月)。これは、東アジアの複数の地域における鏡像(線刻鏡)の図像研究を踏まえ、10世紀以降に流行する水月観音図像の特徴を敦煌図像から探ろうとする内容である。 その他、呉越国の仏教文物が古物として仏塔に納められる様相をまとめ、「仏塔への古物の納入に関する一考察」『美術史歴参 百橋明穂先生退職記念献呈論文集』百橋明穂先生退職記念献呈論文集刊行委員会編、中央公論美術出版(2013年3月)にて活字化した。本内容は前年度の浙江省博物館における作品調査を基にしている。金工品は仏教文物の中でも現存する割合が比較的高く、これらがどのような意図で用いられたか現存作例から考察する内容で、制作背景まで視野に入れた総合的な意義を持つ作品研究の方法と考える。 前年度に引き続き主に国内と中国に於いて作品の調査を行い、本年度は更に個々の作品研究を深めながら口頭発表、活字化と成果の公表も行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は当初の計画を遂行するために浙江省周辺における仏教工芸品の情報を集め、積極的に実地に赴いて調査を行った。それにより研究目的の一部ではあるが、口頭発表と論文によって研究をまとめ、成果を発表した(『敦煌・絲綢之路国際学術研討会議論文集』・『美術史歴参 百橋明穂先生退職記念献呈論文集』)。 また、前年度の研究計画に従い、10世紀の工芸品が出土した東南アジアにおける沈没船の情報・資料を収集し、データ作成の充実及び把握に努めた。これらの資料は次年度以降に行う具体的な作品研究へとつなげる予定である。 本年度で研究期間のうち半期を経たため、これまでの研究内容を順次まとめていっている。更に、前年度までの情報収集を基にして新たな見解を得たり、新たに必要とする資料が出た場合にはこれらに応じて対処し、次年度以降の研究活動の準備を行うことができた。以上により、現在はおおむね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の研究方針に沿って、五代十国時代の金属工芸品について資料収集を継続し、最終的には可能な限りの作品調査を経て、今後有益に活用できる基礎調査としてまとめることを目的とする。これまでに主な調査対象地域である浙江省の研究者と情報交換及び調査協力を相互に行ってきたため、更にこれらを深めて今後の研究を充実させていく。 また、前年度の調査成果によって調査範囲を中国、日本、朝鮮半島及び作品を所蔵する欧米に加えて、近年特に沈没船の研究が著しい東南アジアを新たに含めたため、次年度の対象地域は広範囲にわたるが、これらの地域に関しては各々の調査報告書を活用し、且つ10世紀の金属工芸品に調査を絞ることで効率よく調査及び研究を進めていく予定である。 また、本研究の成果及び最終年度までに現地の研究者と行ってきた研究交流の内容を、学術的にまとめて公表することを目的に、共通テーマのもとで各自が論文を書いて発表するなどの成果に反映できるようにしたいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度までに国内及び中国浙江省を中心に調査を行ってきたため、次年度は欧州(フランス・ギメ美術館、イギリス・大英博物館など)、韓国、東南アジア(インドネシア、シンガポール、フィリピンなど)を中心に実地における作品調査及び資料収集を行う予定である。 以上の次年度の研究方法は本研究の主な内容として本年度まで継続して行ってきており、研究費としては資料購入費と実地における作品調査のための旅費が依然として大部分を占めることになる。 更に、次年度は本研究期間の後半期に入るため、これまでに収集した資料及び画像資料の整理やまとめを行う必要が出てくる。五代十国時代の金属工芸品の画像やデータを一括して処理し、基礎資料を作成していくために、情報処理機器及び周辺物品の購入を想定している。
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