2011 Fiscal Year Research-status Report
平田郷陽と人形芸術運動の研究―平田家資料の調査を通して―
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23720074
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
田中 圭子 東京芸術大学, 大学美術館, 学芸研究員 (10571953)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 工芸 / 美術史 / 芸術諸学 |
Research Abstract |
本研究課題は、平成23年の平田郷陽旧蔵資料の調査・分析を通して、郷陽の戦前期の創作活動を検証するとともに、現存が確認されている昭和初期に制作された作品の調査研究を行うことを目的としている。平成23年度は、平田家資料の全体像の把握と、人形芸術運動に関する文献資料のデジタル・アーカイブ化を行った。調査により、これまで戦火で失われたと考えられていた人形芸術運動に関する資料が多数確認された。これらは近代人形史を大きく塗り替える発見といえる。この資料から得られた知見の一端を「白澤会と平田郷陽 試論」『人形玩具研究 22号』で発表した。整理・撮影を行った資料の現物は長期保存のための処置を施し、画像と調書データは、吉徳資料室に寄贈し研究者向けに公開してもらうこととした。写真資料については、戦前期のアルバムの撮影と被写体・書き込み情報のデータ化を進めている。写真には個人情報が多く含まれるため、リストのみの公開を予定している。作品調査では、主に関西圏にある作品の調査・撮影を行った。以上の成果の一部は、佐野美術館『平田郷陽展』のシンポジウムでの講演で紹介した。また、平成23年にアメリカで新発見された平田郷陽の答礼人形が修復のために日本に里帰りした。申請者はこの修復にコーディネーターとして立ち会った。郷陽の処女作ともいえる人形の修復に携わることで、初期の人形制作技法や構造、表現の特質について詳細な調査を行うことができた。この修復後のお披露目として、同志社大学と横浜人形の家で答礼人形に関する展覧会を行った。展覧会に際し、現存する答礼人形52体すべての画像を収集、撮影した。これにより製作者の特定や、作風比較が可能となった。アメリカの美術館に依頼した調査の過程で新たな資料や所在不明であった作品も発見された。答礼人形に関する研究成果は、同志社大学で開催されたシンポジウムおよび展覧会図録で公開した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
23年度の調査の結果、平田家資料が既に公開されている資料に基づく事前調査からの予測よりも膨大かつ多岐にわたることが判明した。そのため、何をどこまで整理するか、調査後の公開は可能かなどの判断を所有者と相談しながら慎重にしながら進めており、当初の予定よりも調書の作成や撮影が遅れている。その一方で、佐野美術館・佐倉市美術館で『平田郷陽展』が開催されたことにより、多くの作品を一堂に会し調査を行う機会を得ることができ、作品調査は大幅に進んだ。また、平成24年度に予定されていた同志社大学の答礼人形展が平成23年度に開催されたため、次年度に予定していた在米答礼人形に関する基本調査はほぼ完了した。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度の調査において、平田郷陽の没後アトリエがそのままのかたちで全て保存されており、これまで知られていなかった人形芸術運動に関する重要な資料が多数残されていることが判明した。平成24年度は前年度に引き続き、(1)平田家資料に含まれる資料の調書を作成し、形状を記録する写真を撮影、データのリスト化を行う。(2)写真および印刷物は、全て高精細デジタルカメラで撮影し、写真裏面やアルバム内の書き込みなどの文字情報と連動したデータベースを作成する。(3)在米答礼人形を含む、現存する戦前期の作品の所在調査および作品調査を行い、展覧会芸術としての人形制作に至るまでの平田郷陽の作風の変遷について考察を行う。作品調査には、(2)の写真および図版資料を活用する。以上の調査結果の報告を、日米両国で開催が予定されているされるシンポジウムや展示への協力、論文の刊行を通して、広く一般に公開する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
物品費では、作家の一次資料である当該資料の劣化を防ぎ保存するための備品、デジタル化したデータの保存機器を計上した。貴重な一次資料をデジタル化することで、資料の現状を記録し、オリジナル資料の直接閲覧による劣化を回避することを目的とする。人件費では、デジタル化済みのデータの整理および文章化のために資料情報の入力作業者として大学院生の雇用を計画している。調査旅費では、関西圏での調査を5回、アメリカでの調査を1回予定している。その他、研究公開費として、資料複写費や研究公開のためのリーフレット、目録、抜き刷り作成費用などの諸費を計上する。(※これらの費用に関しては東京芸術大学の旅費・謝金単価を用いて算出し、備品及び消耗品に関しては実勢価格を基準とする)
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Research Products
(5 results)