2011 Fiscal Year Research-status Report
近代日本の伝統音楽における演奏の場についての実証的研究:箏曲演奏会を中心に
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23720075
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
福田 千絵 お茶の水女子大学, 文教育学部, 非常勤講師 (10345415)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | 演奏の場 / 演奏会 / 邦楽 / 箏曲 / 近代 / 伝統音楽 / 家元 / 三曲 |
Research Abstract |
本研究は、近代における日本の伝統音楽の、演奏会を始めとする「演奏の場」の変遷を実証的に明らかにし、それにもとづいて、伝統音楽が、文化的・社会的に大きく変動した時代においてどのように伝承を継続し、活動を展開させたのかという経緯について考察することを目的とする。実証的な邦楽演奏会研究の端緒として、本研究では、箏曲を中心として演奏会情報の基礎データを収集し、近代的家元制度の確立、「演奏の場」の西洋化、太平洋戦争のための芸術活動の規制、現代の「演奏の場」への道筋、の4点について考察を行う。 初年度は、前半に統計ソフトの設定やデータ入力手順について検討し、後半に入力作業と考察を行い、近代的家元制度の確立について家元と会員の演奏活動を中心に考察した。 データに関しては、大正後期から昭和前期にかけての箏曲に関する重要文献である邦楽雑誌『三曲』(1921年創刊-1944年終刊)のうち前半の10年分を主要な資料とし、掲載されている演奏会プログラムおよび演奏会予告と演奏会報告からすべての演奏会情報を抽出した。演奏会情報は、重複を省き、演奏会名・開催日時・場所の基本情報のほか、音楽ジャンル・流派・料金・演奏者数なども含めて統計ソフトで管理し、現在までに、1921年から1931年の演奏会データ約5,000件の入力がほぼ完了した。 データに基づく考察により、初年度は次の点が明らかになった。(1)1920年代末から件数が大幅に増加した。(2)東京で刊行された雑誌であるが、東京に次いで大阪の件数が多く、そのほか北海道から九州、満州・朝鮮、米国の演奏会も掲載されていた。(3)1923年の関東大震災の影響で一時休刊しており、その前後で演奏会に変化がみられた。(4)特定の会派に注目して考察したところ、戦前の「演奏の場」の変遷が読み取れると同時に、家元の多様な演奏活動が会派の維持と発展に貢献していた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究は計画に沿って微細の修正を行いながら、おおむね順調に進展している。詳細について、データ入力と考察に分けて記述する。(1)データ入力 初年度は、演奏会情報のデータ入力に力点を置き、統計ソフトの導入、入力フォーマットの設定、入力補助員の作業監督、およびデータ確認と追加入力を行った。統計ソフトの導入とフォーマットの設定は順調であったが、データ入力の段階で当初の計画を修正することになった。当初は、初年度に『三曲』全号について演奏会プログラムのみを抽出し、次年度に『三曲』全号について彙報の情報である演奏会予告と報告を抽出する計画であった。しかし実際には、プログラムと演奏会予告・報告を分離して補助員に入力してもらうことが困難であり、また、1920年代末からの演奏会数の増加が予想以上に大きく、入力作業が増加した。そのため、初年度のデータ入力の対象範囲は『三曲』前半までのプログラムおよび演奏会予告・報告となった。次年度は『三曲』後半を入力するが、それによって、2年間で『三曲』のプログラムと予告・報告のすべてを抽出するという当初の計画には沿うことになる。(2)考察 考察は、近代的家元制度の確立について、当初の計画に沿って着手した。しかしながら、初年度では、入力データの期間が全年ではなく予定を下回ったために考察対象とできる家元組織が限られた。次年度には、『三曲』全号に考察対象を広げ、箏曲全体について近代的家元制度の確立状況を考察し、さらに「演奏の場」の西洋化についても考察を行う。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の推進方策について、(1)データ入力、(2)データ収集、(3)考察に分けて記述する。(1)データ入力:次年度で、『三曲』後半(1932年~1944年)の演奏会情報、すなわち演奏会プログラムおよび演奏会の予告と報告に関する記事をすべて抽出し、『三曲』の演奏会情報の入力を完了する。初年度に完了できなかった演奏会プログラムの全年分の入力もここで完了する。(2)新たなデータ収集:『三曲』以外の音楽雑誌の演奏会情報を収集し、『三曲』と同様に演奏会情報をデータ入力していく。また、現在、活動している箏曲伝承者に面接し、所蔵する演奏会資料の提供を働きかけていく。具体的には、関東在住の山田流・生田流箏曲家数名、および大阪・京都在住の生田流箏曲家数名を予定している。これによって、各伝承系統で所蔵されている戦前の演奏会に関する資料、とくにおさらい会や月次会などの、演奏会情報には表れない小規模な「演奏の場」についての資料を収集する。(3)考察:『三曲』のデータ入力の完了にともない、初年度の考察を引き継いで、『三曲』の対象年代1921年から1944年までの箏曲における近代家元制度の成立について考察を行う。ここで対象期間におけるデータがそろうので、箏曲界全体について考察を行う予定である。また、有料の演奏会に注目し、日本伝統音楽の西洋化について考察を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は、『三曲』掲載の演奏会情報の入力補助員の人件費、および新たなデータ収集のため、大阪・京都方面の旅費、同時に箏曲伝承者に面接を行うための旅費と専門的知識提供に対する謝金が必要となる。次年度は、当初の計画よりもデータの入力件数が多いので、人件費が多くなる予定である。そのほか、関連図書費、打合せや資料収集、学会発表のための旅費、プレゼンテーション関連の物品、入力作業に用いるPC関連の物品が必要である。図書は、日本音楽関連だけでなく、音楽学、西洋化、文化論等の関連図書を予定している。 翌年度以降も、『三曲』以外の音楽雑誌からの演奏会情報の抽出と入力、伝承者への面接と所蔵する資料の提供、学会発表を毎年行うので、次年度の必要経費である旅費と物品費は翌年度以降もほぼ同様に必要となる。また、最終年度には、データベース公開および英文での論文執筆に関する経費も計上する予定である。 計画は、このままおおむね順調に進めば変更の必要はないが、あえて計画変更の可能性を指摘するとすれば、データ入力件数の量により入力が遅れること、あるいは伝承者の協力が十分に得られずに情報収集が滞ることが想定できる。その場合、データ入力に関しては、入力項目を減らして作業量を減少させ、その代わりに対象年代は網羅する方法をとる。伝承者の協力については継続して働きかけ、面接を繰り返し、わずかでも確実な情報を提供が得られることを目指す。
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Research Products
(1 results)