2013 Fiscal Year Research-status Report
近代日本の伝統音楽における演奏の場についての実証的研究:箏曲演奏会を中心に
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23720075
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
福田 千絵 お茶の水女子大学, 文教育学部, 非常勤講師 (10345415)
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Keywords | 演奏会 / 邦楽 / 箏曲 / 三曲 / 十五年戦争期 / 家元制度 / 近代化 / 演奏の場 |
Research Abstract |
本研究は、近代における日本の伝統音楽の、演奏会を始めとする「演奏の場」の変遷を実証的に明らかにし、それにもとづいて、伝統音楽が文化的・社会的に大きく変動した時代における、伝承の継続と活動の展開の経緯について考察することを目的とする。実証的な邦楽演奏会研究の端緒として、箏曲を中心として演奏会情報の基礎データを収集し、近代的家元制度の確立、「演奏の場」の西洋化、太平洋戦争のための芸術活動の規制、現代の「演奏の場」への道筋、の4点について考察を行う。 3年目となる今年度は、演奏会データ24年分約1万件の整備を行い、データを基に十五年戦争期(1931-1945)の邦楽演奏会について考察を深めた。 データに関しては、箏曲に関する重要文献である邦楽雑誌『三曲』(1921年創刊-1944年終刊)の全号に掲載されている、演奏会プログラムおよび予告と報告記事から、演奏会名・開催日時・会場等の基本情報の入力作業を2年かけて行った。今年度は、そのデータの確認作業と並行して、出演者と流派、演奏会の趣旨、入場料、曲数、演奏者数等の各種情報の入力、会場名の整理、『三曲』本文の演奏会関連記事の抽出を進めた。 データに基づく考察は、十五年戦争期に着目して行った。本データは、戦争期の情報が比較的豊富である。考察の結果、次の各点が明らかになった。(1)この時期の演奏会の種類として、慰問と献金の演奏会が特色であった。これには、1920年代の慈善・慰安演奏会との連続性が認められた。(2)慰問・献金演奏会は、戦況の激化の中で貴重な演奏の場であり、情勢に応じて実施数が変化し、地域による特色もみとめられた。(3)『三曲』の記事から、三曲家に影響した戦争に伴う芸能統制の全容をつかむことができた。(4)統制は演奏会や楽器にとどまらず、奉仕活動や貯蓄動員等の統制が年を追うごとに増加し、音楽活動を圧迫していった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究は計画に沿って進めているが、一部に遅れが生じている。詳細について、(1)データ整備、(2)伝承者の面接、(3)考察に分けて記述する。 (1)データ整備△ 今年度は、基礎情報の入力が完了した24年分約1万件の演奏会データを確認し、未入力であった各種情報(出演者と流派、演奏会の趣旨、入場料、曲数、演奏者数等)の入力と会場名の整理、および雑誌『三曲』本文における演奏会関連記事の抽出を進めた。いずれの作業も大量にあるのにもかかわらず専門性が高いため、入力補助員に入力作業を分担できるのは一部分に限られてしまい、研究代表者がほぼ全般にわたって単独で行ったため、相当の時間を要した。そのために、データ確認と本文抽出は終了したが、各種情報の入力作業が最終年度に継続となった。 (2)伝承者の面接△ 伝承者からの情報提供に関しては、面接が進まず、所蔵資料の閲覧が予定通りに進まなかった。打診したところ、予想以上に、手元に戦前の演奏会関連資料、すなわち演奏会プログラムやチラシ等が残っていないケースが多かった。伝記等の文献調査を並行して行う必要性が高まった。 (3)考察◎ 今年度は、データ入力が一通り完了しており、一般的に資料が限られている戦争期について一定量のデータがあったため、考察が予想以上に進展した。雑誌の終刊までの演奏会の動向を追うことで、慰問・献金演奏会の役割、大日本三曲協会を通じての芸能統制の影響等、戦時中の三曲演奏家のおかれた状況が明らかになり、口頭発表1本、論文2本を発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の推進方策は、最終年度として、これまで遅れている部分を代替案で進展させ、これまでの研究を総括することを主眼とする。以下に、(1)データ整備、(2)伝承者の面接、(3)考察、(4)総括に分けて記述する。 (1)データ整備については、24年分約一万件のデータについて、残っている入力項目、すなわち、出演者と流派、演奏会の趣旨、入場料、曲数、演奏者数等の入力を継続する。記載は略記が多く、専門性が高い内容ではあるが、できるだけ入力補助員に依頼して作業時間を短縮する。同時に、データベース公開のために、表記の統一などの整備を進める。同時に、『三曲』以外の音楽雑誌についても探索を進める。 (2)伝承者の面接については、箏曲伝承者に面接し、所蔵する演奏会資料の提供の働きかけを継続する。ただし、これまでの働きかけにおいて、手元に残されている資料は多くないと思われる。そこで、代替案として、箏曲家の伝記等における演奏会に関する記述を探索する。 (3)考察は、収集した演奏会データに基づき、演奏の場の変遷についてまとめを行う。はじめに、全データについて各種情報を考慮して演奏会の種類を分類し、年代による変化を考察する。次に、近代的家元制度の確立、演奏会の西洋化、戦争期の特色に着目したこれまでの成果発表に、現代への連続性に着目した考察を加え、邦楽演奏の場の変遷について論じる。学会発表と論文執筆数本を予定している。 (4)最後に、4年間の成果を報告書にまとめ、戦前の邦楽演奏会データベースを公開する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度は、データ整備のための入力補助の依頼、成果発表、関連書籍購入等を計画に沿って進め、計画通りに研究費を使用した。それにもかかわらず、次年度使用額が生じた主な理由は、次の2点である。 ひとつ目の理由として、箏曲伝承者の面接に関する費用として、面接を行うための旅費や専門的知識提供に対する謝金を使用しなかったことが挙げられる。伝承者の面接は、打診したものの実現できなかったためである。予想以上に、戦前の演奏会に関する資料となる、プログラムやチラシが伝承者の手元に保存されていない場合が多く、資料収集のための面接ができなかった。 もうひとつの理由として、今年度は学会発表や資料探索が近距離で済んだために、旅費が発生しなかったことが挙げられる。 研究費の使用については、『三曲』演奏会データ整備、伝承者への面接と所蔵資料の収集、成果発表を行うため、人件費、旅費、物品費が今年度とほぼ同様に必要となる。 具体的には、データ整備のための入力補助員の人件費、箏曲伝承者への面接を行うための旅費と専門的知識提供に対する謝金、学会発表のための諸費用と旅費、近代の音楽文化および邦楽演奏家の伝記、音楽学、音楽史等の関連書籍購入を予定している。 そのほか、最終年度として、研究の総括のための報告書作成、データベース公開、英文校閲を行う。報告書には、データベース、これまでに発表した関連論文の要旨、考察、英文要旨を盛り込むので、印刷代、英文校閲の費用が必要である。また、データベースはネット上で公開するため、専門業者による作成補助の費用が発生する予定である。
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Research Products
(3 results)