2012 Fiscal Year Research-status Report
能楽の近代化の研究―明治・大正期能楽上演記録データベースの構築を中心とする―
Project/Area Number |
23720091
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
中尾 薫 大阪大学, 文学研究科, 講師 (30546247)
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Keywords | 能楽 / 近代化 / データベース / 上演記録 / 芸術 / 日本 / 伝統芸能 / 芸術政策 |
Research Abstract |
当該年度は、能楽上演データの集積をひきつづき重点的に行なった。具体的には、雑誌『能楽』所収の明治期における上演記録、上演予告について、演目・上演日時・上演場所・演者等の各項目である。このデータをインターネットを通じて検索可能なデータベースに完成させることが最終的な目標のひとつだが、今度はデータの収集と整備にとどまっている。しかし、予定していた雑誌『能楽』以外に、当初予定していなかった、大阪大学大学院演劇学研究室蔵の明治期能番組、新たに入手した福王流謡会の上演記録もデータに加えることができ、明治・大正期の能楽の上演記録として充実したものに近づきつつある。ただし、今年度に予定していた「明治・大正期能楽関連人物年鑑」のとりまとめについては進めることができなかった。これは新たに入手した資料の入力に時間を費やしたためであり、来年度の予定に変更する。 本研究のもう一つの目標は、上演記録を副資料と扱いつつ、明治・大正期における能楽の変化を「近代化」という視点でとらえるために、早稲田大学で中心的に開催された「能楽文学研究会」の動向を分析することにあった。この方面の研究においては、「近代能楽の一事象 ―「夢幻能」という用語の成立過程試論―」という題目で2012年度第2回研究会「東アジア古典演劇の「伝統」と「近代」―「伝統」の相対化と「文化」の動態把握の試み―」(2012年2月23日、於国際高等研究所)にて研究発表を行ない、成果をあげた。そこでは、「能楽文学研究会」における研究方針が、恣意的に西洋演劇と対峙する演劇としての能楽の地位を確立するために、新らたな価値を付加しようとする動向があることを具体的に明らかにする視点を前進させることができた。また、学術論文「能楽の近代化と池内信嘉-能楽の改良し得らるゝや否や-」(『演劇学論叢』12号 2012年7月 pp.7-23)も発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の研究の目的は、(1)明治・大正期の能楽上演データの収集と整備、(2)「能楽文学研究会」における諸研究の分析。(3)入力したデータを元とした「明治・大正期能楽関連人物年鑑」の作成であった。このうち(1)については、アルバイトの協力を得、ほぼ順調にデータの蓄積を重ね、まとまったデータである早稲田大学演劇博物館蔵の明治期能番組各種については、データの整合性についての整備まで行なうことができた。また(2)については、今年度は口頭発表の予定はしていなかったが、分析が順調に進み、「近代能楽の一事象 ―「夢幻能」という用語の成立過程試論―」という題目で2012年度第2回研究会「東アジア古典演劇の「伝統」と「近代」―「伝統」の相対化と「文化」の動態把握の試み―」(2012年2月23日、於国際高等研究所)にて研究発表、学術論文「能楽の近代化と池内信嘉-能楽の改良し得らるゝや否や-」(『演劇学論叢』12号 2012年7月 pp.7-23)を発表する成果をあげることができた。そこでは、「能楽文学研究会」の方針のひとつとして、恣意的に西洋演劇と対峙する演劇としての能楽の地位を確立するために、新らたな価値を付加しようとする動向を具体的に明らかにできることができたという点で、来年度にむけて大きく前進できた。 しかし、(3)の「明治・大正期能楽関連人物年鑑」の作成については、予定通りに進めることができなかった。その原因は当初予定していなかった新資料を付加したことにより、最終的な研究成果の充実という点では不可欠な処置であった。しかし、当初予定していなかった、研究会での口頭発表をすることができたことと合せると、今年度の研究の目的は、おおむね順調であったという評価となる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、収集した明治・大正期の能楽上演データをデータベースとして可動させるために、必要な処置を講ずる予定である。そのためアーカイブ関係の専門家の指導をあおぐ機会が模索する。この作業に専念するため、今年度は新たなデータの入力はほとんどしない予定とし、研究成果としてまとめるためのデータの分析を重点的に行なう。その過程において、昨年度実施ができなかった「明治・大正期能楽関連人物年鑑」の作成に着手する。また、ひきつづき研究成果については、研究会や学会等での発表の機会をもうけ、論を深めていく。また、最終的には、データを学会誌(『演劇学論集』等)など紙媒体での発表に向けた準備を行なう。 なお、もしデータベース運用に困難が生じる場合、今年度は紙媒体のみでの発表、もしくは全データではなく、インターネットを通時で運用可能な一部データの公開のみにとどめることで対処したい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
1,学会・調査出張費2日東京方面(交通費25千円+宿泊費9千円×日当25千円=59千円)。2、デジタルアーカイブ専門家への謝金(3、5千円×3時間=)成果発表、資料収集のための旅費(東京方面)×1回。3,資料文献購入費30、5千円、合計100千円の使用を計画している。
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Research Products
(2 results)